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デムロア攻略戦

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第二章 上陸

巨大要塞ビルギギンから50km離れた地点にある防衛観測所。
夜明けから1時間が経過していたが、いつもと変わらぬ様子に緊張感の薄れたバララント軍兵士が大きな口を開けて欠伸をしている。
その刹那、人生最後の欠伸となる事を知る由も無く兵士の身体は失せた。
オバノーから投下された集束爆弾。目標に対して広範囲に攻撃を加える爆弾で俗に「クラスター爆弾」とも呼ばれている。
地表近くで炸裂して胴体部分に詰め込まれている多数の子爆弾を撒き散らす無差別兵器なのだ。
対装甲車輌・対人殺傷を目的としており、子爆弾は散布後、直ちに爆発し無数の金属片を飛散させる。
その金属片は周囲の車輌をズタズタに引き裂いて人間を肉片に変えた・・・。
ピンポイント破壊を目的とした精密誘導兵器とは対照的に広域を面として制圧するのが特徴だ。
鼓膜を切り裂く集束爆弾の炸裂音。パニック状態に陥った観測所の兵士達が建物に非難する。
しかし、飛び散る金属片は秒速50mという拳銃の弾より速い速度で逃げ惑う兵士達の頭蓋骨や大腿骨を破壊し肉片を散らかした。
観測所の兵士達は怯んでいた。
当然だろう。衛星無人攻撃機は正常可動であり、衛星レーダー探索機からの情報も異常は見受けられなかったのだから。
ビルギギン本部に連絡をしようと慌てて回線を開く通信兵。
通信スイッチを押そうとしたが、その建物ごと吹き飛ばされた。
集束爆弾に続いて投下されたのは新型燃料気化爆弾だった・・・。
液体状態で詰められている燃料を着弾寸前に大気に放出する。
空気と攪拌させ最適な混合率となった時点で点火し、数百mの火球で全てのものを根こそぎ吹き飛ばす事が可能な非常に強力な爆弾だ。
戦術核を除けば現在で最強と呼ばれている兵器である。

防衛観測所は火炎地獄と化していた。
たとえ建物や塹壕に隠れても、全ての酸素を燃焼し尽くす酸素欠乏の
窒息死や急激な気圧変化による内臓損傷で苦しめられる事となるのだ・・・。
又、この燃料気化爆弾は使用される条件下で幾つかのタイプが存在する。
本作戦ではその中でも最大級の攻撃範囲を有するものが使われた。
故に破壊力と殺傷効果は非人道的である。
爆破実験に参加の者達は口を揃えて新型核の開発に成功したと勘違いする凄まじさだと応えたと云う。
これにより、オバノーは無傷で防衛観測所の奇襲攻撃に成功。
ミーマ大尉がオペレーターに指示する。
「後方部隊に伝達。防衛観測所の奇襲に成功。これより爆撃機、並びにAT部隊の出撃を開始する。
後方部隊は予定通りに上陸せよ。以上だっ!」
ミーマ大尉に続いてレオノ大佐が作戦実行全隊員に告げる。
「出撃せよ!」艦内に出撃のサイレンが鳴り響いた。
オバノーのハッチが開き次々と揚陸艇が降下する。
続けとばかりに900Kg爆弾バンカースタイガーを装備した爆撃機がオバノーのカタパルトデッキから出撃。
900kg爆弾は、爆心地より400m離れていても兵士の鼓膜を破く威力を誇る強力な爆弾である。
炸薬量は減らされているが、弾頭の金属部分を強化しており、コンクリート等を貫通し内部で爆発する地下塹壕破壊用の兵器だ。
続いて第七降下騎兵団のATフライも出撃を開始した。
スカイフォーク部隊の名に相応しくATの左フロントアーマー部に牙を剥くフォークルトがペイントされている。
フォークルトとはアストラギウス銀河の地上に生息する凶暴な肉食獣である。
スカイフォーク部隊・・・それは大空の肉食獣を意味していた。

RS部隊の揚陸艇が今も尚燃え続けている観測所に降り立った。
揚陸艇のハッチが開き次々とRS部隊のATが姿を見せる。赤い右肩が生血を吸うのに涎を垂らしていた。
グレゴルー小隊のバイマン上等兵が云う。
「おいおい、残存兵など存在するのかぁ?」
彼らの上空をスカイフォーク部隊のATフライが通過する。
スカイフォーク部隊以外の各AT部隊は観測所の残存勢力を鎮圧する事が第一任務であった。
ふてぶてしい態度でバイマン上等兵が続けた。
「スカイフォークの奴ら、真っ先にビルギギンに向かう積もりか!」
バイマン上等兵の言葉にグレゴルー伍長が応える。
「いや、途中には地対空ミサイルが配備されている筈だ。況してこの強風・・・。
ATフライ程度じゃ高高度からの降下は望めねぇからな。そう易々とビルギギンには辿り着けまい。」
ムーザ上等兵が割って入る。
「他のAT部隊も到着だぜぇ。」
第七二強襲機甲部隊、第十四強襲機甲部隊の揚陸艇もハッチが開きATが姿を見せる。
独自に開発したと云われる自走砲に跨る第十四強襲機甲部隊のATを前にムーザ上等兵が云う。
「けっ!裸の間抜けだな!あんなもんに跨るくらいなら生身で戦った方がマシだぜ!」
その刹那、地上まで僅か15mと迫った第七二強襲機甲部隊の揚陸艇が轟音と共に爆発炎上して四散した。
「敵弾!」
RS部隊のラドルフ伍長が瞬時に叫んだ!
崩れ落ちて燃え続ける建物の中から地対空ミサイルが発射されたのだ。
しかし、運命とは皮肉なもので撃墜された揚陸艇の真横にいた揚陸艇は無事だった。
過酷な戦場を生き抜くこと・・・。
パイロットとしての腕は勿論だが、限りなく小さな可能性や確率を掴む事の出来る兵士こそ戦場を生き抜く事が出来るのかもしれない。
RS部隊トーマ小隊の小隊長であるトーマ・エイミス伍長のスコープドッグから、
ヘヴィマシンガンGAT-22が地対空ミサイルを発射したバララント兵に向かって咆える。
対地戦闘用ヘリの30mm機関砲を元に開発されたAT専用兵器だ。
敵兵の身体は木端微塵に砕け飛ぶ!
・・・大半の肉は千切れて、辺りに血煙が舞った・・・。
「これだけの爆撃を受けて残存兵が居やがるぜ。」
トーマ伍長が云う。
「面白ぇじゃねぇか。人狩りを始めるとしようぜ。」
ラドルフ伍長は冷めた口調で応えた。
その言葉に喊声を上げるRS部隊。
その光景に血の気が引くのを他のAT部隊員達は感じていた。
敵兵であっても生身の人間をAT兵器で攻撃すれば目を覆いたくなる光景が飛び込んでくる筈だ。
「RS部隊は殺戮者だ・・・。」そう呟く小さな声が訊こえた。

両脚首を吹き飛ばされたバララント兵が左右の腕を懸命に動かし匍匐前進の様に腹這になって逃げ場を探している。
身を隠す場所でもあれば助かるかもしれない。
しかし、後方から訊こえてくる轟音は明らかに自身に向けられていた。
身体を翻して視線を後方へ向けるバララント兵。
右肩の赤いATがローラーダッシュと呼ばれる高速走行で接近しているのだ。
ローラーダッシュとは、ATの両脚裏に組み込まれるグライディングホイール(走行用車輪)を高速回転させて走行するATの基本動作の一つだ。
「うわぁぁぁっ!」
バララント兵が悲鳴を上げる。
RS部隊のATが敵兵を轢き殺した。
脚部に仕込まれているロケットエンジンを展開していない状態ではあったがアクセルペダルは全開だったのだから即死であろう。
その向こうではATに踏む潰される者、アームパンチシステムで頭蓋骨を粉砕される者など・・・
辛うじて生き残っていた兵士達は皆殺しにされた・・・。
アームパンチシステムとは非常に単純な構造で、腕部薬室で薬莢内液体式炸薬を発火させ、そのガス圧で肘から先を高速で伸縮させる格闘用の武器である。
ATが装甲車輌等を攻撃する際に使用するアームパンチシステムを生身の人間に対して打撃するのだ。
その結果を想像するのは難しい事でもないだろう。
跡形も無く・・・そう、跡形も無く砕け散ったのだ・・・。
「や、やめてくれ・・・助けてくれぇ・・・!」
必死に命乞いをするバララント兵。
RS部隊ゲイル・ラトニアム特技下士官機の左マニュピレーターに握らされている非固定式アイアンクローが自身に向けられている。
アイアンクローは心臓の位置を指したまま動かなかった。
「ギ、ギルガメス軍・・・ば、万歳!・・・俺はギルガメス軍に投降する!」
涙を流しながら云う。
「投降す・・・!」
言葉を云い終わる前に左腕のアームパンチシステムが炸裂した。
左マニュピレーターが握っていた非固定式アイアンクローはベルゼルガのパイルバンカーよろしく敵兵の身体を貫通。
アイアンクローはそのまま敵兵の身体から引き抜かれる事なく手放された。
敵兵が背にしていた観測所の残骸に突き刺さったままのアイアンクローを見ながらゲイル特技下士官が云う。
「ギルガメス製の立派な墓標だ。感謝してほしいものだな。」
そう云うと試作兵器GAT-30マグネフェーザー・ガンのエネルギーチャージを開始した。
一目でその長身ぶりが伺えるAT専用試作兵器。
アキュームレーターより形成される弾体は強力なエネルギー弾となって発射されるが、発射時は無反動のためATが両腕で構える必要性は無いとされている。
基本的には対艦戦を主眼として開発が進められた兵器であるが、
メルキア方面軍第三八〇特殊技術試験隊より本作戦での運用試験をRS部隊が任されたという経緯がある。
しかし、第三八〇特殊技術試験隊にはカルマン・トムス技術中尉が所属している。
この事からもペールゼン大尉が行う実験と何らかの繋がりがあるものと推測するは難しくない。

ゲイル特技下士官機の傍に第七二強襲機甲部隊のAT1機が立ち止まった。
左後方、距離にして約3m程であろうか。
「貴様、無抵抗の者に対して・・・。しかも降伏していたんだぞ!貴様らRS部隊は殺人鬼の集まりか!」
第七二強襲機甲部隊のATパイロットが怒りを顕わに云う。
しかし、ゲイル特技下士官機の固定式小型アームソリッドシューターが装備されている左腕が、自身に向けられた。
何故味方機に攻撃され挙句の果てには戦死・・・いや殺されなければならなかったのか。
考える時間さえも無いままATパイロットは死亡した。
ソリッドシューターとは電磁加速によって弾体を飛ばすリニアガンの一種で弾体には幾つかの種類が存在する。
現在で小型アームソリッドシューターは口径の異なるものが2種類確認されている。
ゲイル特技下士官機装着の小型アームソリッドシューターは小口径タイプであるが、この至近距離からAT頭部バイザーに3発も撃ち込まれれば一溜りも無い。
バイザー部を貫通した弾体はATパイロットの首から上を粉砕、コクピット内は血の海と化した。
機能が停止しないまま仁王立ちする第七二強襲機甲部隊のATを前にゲイル特技下士官が云う。
「貴様は吸血部隊なのか?吸血部隊でもない奴が俺達に話し掛けるだと?」
その言葉を云い終わる刹那、仁王立ちATのコクピット部、云わば上半部が四散炎上した。
AT上半部の粉砕状況から砲撃位置を割り出したゲイル特技下士官は瞬時に小型アームソリッドシューターを向ける。
ゲイル小隊のゲイガン上等兵機とダフィー・デイト上等兵機も同方向に銃口を向けた。
そこにグレゴルー伍長機がGAT-22を構えて立ち尽くしていた。
バイマン上等兵機とムーザ上等兵機も銃口を此方に向けているが攻撃したのはグレゴルー伍長に間違いなかった。
グレゴルー伍長機のGAT-22は銃口より微かに硝煙が立ち昇っていたのだから・・・。

巨大要塞ビルギギン指令本部は現状で把握仕切れる全ての情報を収集していた。
デムロア方面軍総司令であるマントヴァ・ハイエンス中将は報告される内容に目を閉じたまま無言で訊いていた。
「衛星攻撃機を無効化して上陸したものと思われます。
Aフィールドの防衛観測所からの応答が途絶えております。既に壊滅状態にある事でしょう。」
「そんな事は判っているんだ!
問題はBフィールド、Cフィールドの観測所を掩らなくちゃならん事じゃないのかね!」
「いや、敵の数を把握する事が最優先だ!無人偵察機を発進させよう!」
飛び交う言葉に混乱が隠せない様子が伺える。
そこにマントヴァ中将が切り出した。
「既に敵の上陸を赦したのであれば後続部隊の上陸を阻止する事は難しいだろう。」
「難しいと申されましたか?」
この言葉に一人の部下が鸚鵡返しにマントヴァ中将へ問う。
「そうだ。Aフィールドは今や裸同然、衛星攻撃機も恐らく破壊されている。」
「ですがBフィールド、Cフィールドは健在です!」
「そうではない。Aフィールドからの侵攻以外は有り得んのだ。」
マントヴァ中将は目を閉じた。
「指令!お言葉ですが敵もビルギギンが難攻不落の要塞である事は承知。ならば一方向からだけの侵攻など・・・。」
この言葉を云い終わる前にマントヴァ中将が目を開き云い放つ。
「これだけ云っても、まだ判らんのか!上陸した敵は百戦錬磨の兵(つわもの)だ。
Aフィールドから真直ぐにビルギギンを目指し侵攻してくるぞ!
直ちにBフィールド、Cフィールドの戦力を本部に集めろ!自動防衛機構解禁!総員に告ぐ!第一級戦闘配備!」
マントヴァ中将の言葉の後、巨大要塞ビルギギン全域に第一級戦闘配備を告げる警報が鳴り響いた。

観測所残存勢力の鎮圧に然程時間は掛からなかった。
云わずもがなであるもRS部隊に損害は無い。
しかし、第七二強襲機甲部隊は既に12名の死亡が確認され、第十四強襲機甲部隊にも2名死亡が確認された・・・。
仲間の死を悼む時間など赦される筈も無く、遂に各AT部隊が要塞ビルギギンに向け前進を開始する!
彼らより一足先にビルギギンを目指した爆撃機は予想を遥かに上回る対空砲火に為す術もなく既に大半が葬られていた。
装備されているエンジン出力が低く、大量生産されているにも関わらずトータルバランスに欠けた機体である事が敗因と云えよう。
最高速度265Km/hの数値にもそれは記されていたのだ。
900Kg爆弾を目的地に投下する事は不可能と云えた・・・。
その後方でも激しい対空砲火の中、ATフライ5機とAT6機を失ったスカイフォーク部隊が苦戦を強いられていた。
ATフライを救おうと自らの機体を切り放したATパイロットは、
デムロアの地を踏む前に対空砲火の餌食となったためATの損害が先行したのである。
そのスカイフォーク部隊長であるドルフェス大尉は地上の異変を逸早く察知した。
森林の中から放たれる砲弾とは明らかに異なる攻撃を見逃さなかったのだ。
「諸君、パラシュート及びAT着地時の衝撃吸収機構を無効とするんだ!着地後直ぐに移動しなければ死ぬぞ!各員衝撃に備えろ!」
ドルフェス大尉が部下達に告げる。
AT衝撃吸収機構とは・・・
本来パイロットの搭乗を容易にするために大腿部支柱を介して両脚を背部へと逃がし、大腿前部と脚部を接地させる動作・・・。
これを高所からの落下着地時にダンパー機能として応用させた機構である。
この機構は着地時の安全性を非常に高めるため無効化しての着地はタブーとされている。
しかし、この行為がスカイフォーク部隊もRS部隊同様の一騎当千百戦錬磨の兵(つわもの)揃いである事を証明していた。
ATフライのパイロットがドルフェス大尉に云う。
「隊長!降下予定地点まで到達していません!もう一辛抱です、お待ちを!」
ここまで激しい対空放火の中、ATを切り放す事は同胞の命を奪うも同然だった。
しかし、ドルフェス大尉は云う。
「コンピュータ制御の攻撃が始まっているぞ。気を抜くなっ!」
ドルフェス大尉は敵が自動防衛機構を起動させた事を部下達に伝えた。
「掩護を頼んだぞ。よくぞ此処まで耐えてくれた。感謝する!・・・強制排除!」
「隊長!待ってぇ、待ってくださいっ!」
ドルフェス大尉のATが自らの意思でATフライから切り放される。
その刹那、各ATパイロットらも強制排除を強行!
高度165mからのパラシュート無開閉垂直降下・・・大空の肉食獣が牙を剥きデムロアの地へ一斉降下したのだ。
「自動防衛機構が解禁?助かった!」
地対空砲で迎撃していたバララント兵が云う。
自動防衛機構より放たれた弾体はホーミング弾だった。
音速領域に達する戦闘機ならば躱す事も可能だが、単体で垂直降下するスカイフォーク部隊には絶望的に思えた。
しかし、バララント兵は信じられぬ光景を目の当たりにする。
自機への発砲と確認した弾体を降下状態のまま狙撃しているのだ。
それだけでは無い!
パラシュート無しで降下するが故に方向転換の出来ぬ機体に後方から迫る弾体を同胞が掩護する。
更にATフライからの掩護も在って次々と森林の中に姿を消す敵AT部隊。
着地時衝撃を僅かでも軽減させようとATの両腕を左右一杯に広げ樹木の枝に接触させていた。
確かに撃破された機体も存在する。存在するのだが撃破されたATは一握りにも満たなかったのだ。
この光景を目撃したバララント兵がビルギギン本部に暗号を告げる。
「ブロークン・アロー!繰り返す、ブロークン・アロー!」
暗号を確認したビルギギン本部より、デムロア星特殊防衛部隊長のヴェルナー・ハルトマン少佐に出撃命令が下された。
「少佐!出撃命令です!」
防衛部隊員がヴェルナー少佐に声を掛ける。
「確認した。しかし急ぎ過ぎるな・・・。敵の詳細を掴む前に出撃とは。」
ヴェルナー少佐は続ける。
「私のEP-02に集中型焼夷弾を装備。兵装は接近戦重視A型にミサイルポッド2基を搭載だ。
他のパイロットは通常のA型で構わんだろう・・・。スカラベ、スネークガンナーの整備はどうか?」
「スカラベ、スネークガンナー共に何時でも出撃可能です。」
「上出来だ。15分後に出撃する!」
ヴェルナー少佐とその部下は互いに敬礼する。

樹木との衝突に体勢を崩したスカイフォーク部隊のATが着地の際に前方へ倒れ込む。
その一瞬の勝機をバララント兵は見過ごさなかった。
発射された対AT砲が左腕に直撃!
直撃を受けて更に体勢を崩されたATは仰向けに転倒してしまった。
同胞に囲まれての転倒ならば意味合いは違えど、ATが仰向けに転倒する事は死を意味していた。
操縦桿とフットペダルを巧みに操作してATを立ち上がらせ様とするも集中砲火を浴びて四散。
右後方でも最悪の状態に陥ったATが確認された。
蜘蛛の巣にも思えるほどの樹木枝に絡まっていたのだ。
GAT-22で枝の粉砕を試みるも対AT砲の集中砲火により大破した。
無事に着地したATは、衝撃を無視して即座にグライディングホイールを起動させる。
パイロットはゴーグル内に映し出される情報に集中していた。
そのATM-09専用パイロットゴーグルに伝達される映像は、
革新の技術により単眼撮影された映像を立体映像に変換して映し出す事が可能だった。
このレンズ技術が成功に至るには膨大な時間と費用を必要とした。
立体映像はパイロットの両目の視覚差で表現が可能であるも、単眼で二種類の映像撮影は不可能と思われた。
しかし、画像を電気信号に変換する際に、
電圧を制御して受光素子が光から発生した電荷を転送させる事の出来る回路素子「ChargeCoupiedDevice」の
装着角度と単眼レンズの装着設定度とを画素単位で切替える「ピクセルシフト機構」を採用する事が打開策となった。
画素が瞬時で左右に移動しているため、
瞬間的には左右何処かに画素が存在する訳だが、人間の目には左右同様の画素数がある様に映し出される。
云わば人間の目のアバウトな部分を利用した技術である。
純正カメラの「ピクセルシフト機構」は超高速動作が可能であり、六十分の一秒毎に単眼レンズ設定度と
「ChargeCoupiedDevice」装着角度とを切替えて一秒間に左右各三十枚の画素を撮像、立体映像を生成しているのだ。
その立体映像に加えて機体情報や戦闘情報等を重畳させているゴーグル表示は左右独立のモニターとなっている。
機体情報、戦闘情報は各種目的に合わせて表示パターンが変化し、視認性を向上させるべく各情報表示部が配置されている。
又、接近戦時には赤外線を利用して可視像とする「NoctoVision」機能も搭載しているのだ。

グライディングホイールを高速回転させローラーダッシュで森林を激走。
ゴーグル内のレーダーモニターには同胞のATが確認された。
その刹那、通信が入る。
ドルフェス大尉からの通信である!
「闇雲に前進するな!降下周辺の敵勢力を鎮圧するんだ!対陣地戦闘隊形を!」
ドルフェス大尉の命令で正気に戻る隊員も少なくなかった。
パラシュート無開閉垂直降下により着地した際、冷静さを失っていたのだ。
AT両脚外側踝部に装着されているターンピックの左側を起動、地面に打ち込まれた杭(ピック)を支点としATがスピンターンする。
即座にゴーグル表示を索敵画面に変更、四方八方に敵兵、並びに固定砲台等を確認した。
「了解!対陣地戦闘を開始します!」
この言葉はスカイフォーク部隊が態勢を整えた事を意味する。
AT本来の踏破力と機動性を活かした敵陣地への突撃が始まったのだ。
目視確認されてしまった固定砲台は既に破壊されるだけのものでしかなく、
陣地に籠る歩兵にも心理的圧迫感を充分に与えて気勢を大きく削ぐ事に成功する。
しかし、大地を揺るがす振動と巨大な爆発音が鳴り響く!・・・あまりにも突然の出来事に両陣営の動きが一瞬静止した。
「な、何だっ!」
スカイフォーク部隊員が爆発音のする方向に視線を向ける。
上空の視界を樹木枝が遮る中、それでも何が起こったかを瞬時に把握したドルフェス大尉が云う。
「バンカースタイガーだ!何故この周辺に投下している?・・・一体何が・・・!」
鼓膜を破りのた打ち回る敵兵の姿は、間違いなくバンカースタイガーが投下されている事を証明した。
・・・ATヘルメットを装着すると通信機スピーカーが耳を覆う状態になる。
・・・そのATヘルメットを装着していなければ此方の鼓膜も破られていただろう。
ドルフェス大尉がATフライのパイロットに状況報告を指示する。
「4機がバンカースタイガーを投下しています!恐らく引返してきた奴らです。」
ATフライのパイロットから報告が入った。
「止めろ!真下には友軍のATが・・・!直ぐに爆撃を中止しろ!」
既に錯乱状態に陥っていたのだろう・・・ATフライからの通信に応答が無い。
抱えた900kg爆弾全てを投下しようと云うのか・・・。
「スタイガー投下付近に移動!移動後は無闇に動くな!」ドルフェス大尉から指示が飛ぶ。
ドルフェス大尉は一度投下された付近に再び投下がされる可能性は少ない筈だと判断した。
その刹那、上空で爆裂音が鳴り響く。
「敵の誘導弾・・・爆撃機1機が撃墜されました!」
ATフライから通信が入る。
「自動防衛機構か・・・まだ生き残っている砲台が・・・。」
ATパイロットが云う。
続いて2機目が撃墜される。ATフライも既に7機がホーミング弾の餌食になっていた。
この場所から約7km離れたスカイフォーク部隊との高低差26mの地点にヴェルナー・ハルトマン少佐率いるデムロア星特殊防衛部隊が到着。
そのヴェルナー少佐が云う。
「地雷原に誘き寄せるぞ。予定通りスネークガンナーの120mmを使う。弾着位置を!」
ヴェルナー少佐の指示に観測兵が弾着観測機器を用いて正確な位置を割り出す。
風向、風速の観測も惰らず正確な位置を割り出した時だった。
一筋の光が上空を走る!
稲光か?
いや、稲光とは明らかに異なる凄まじいエネルギーの束が放たれているのだ。
その光の中で2機の爆撃機と4機のATフライが爆発と共に蒸発する。
放たれている光の方向に目を向けるヴェルナー少佐。
ビルギギン周辺を覆う森林地帯の入り口とも云える辺りから発射されているのだろうか。
「新手か?」
ヴェルナー少佐はEP-02のスコープレンズをズームアップする。
「ちっ!ロングレンジタイプのレンズでなければ無理か・・・。索敵急げ!恐らくは敵のAT部隊だ。」
光の矢が放たれた方向にスネークガンナーに装着された望遠カメラの焦点が向けられる。
一瞬、言葉を発する事が出来なくなる部隊員。
しかし、直ぐに気を取り戻しヴェルナー少佐に報告する。
「敵ATを捕捉、有に300を超える大部隊です!」
報告された内容にEP-02のコクピットハッチを開けてヴェルナー少佐が走る。自らの目で確認する必要性があったのだ。
「見せろ!300を超えるAT部隊だと!」
望遠カメラからの映像を確認しているヴェルナー少佐に部隊員が割って入る。
「既に森林内へ突入したATを考えれば300を超えるものと思われますが・・・。」
「確かにな・・・。しかし、あの光を放った兵器は何処だ!」
「間違いなく発射された地点に焦点を向けました。しかし、私が確認した時には突入するATの姿しか・・・。」
「ば・・・馬鹿な!
あれだけの高エネルギーを発射する砲台を短時間で移動出来る筈が無い。貴様は索敵を続けろ!何か確認出来次第報告するんだ。」
ヴェルナー少佐がスネークガンナーから出て部隊員達に告げる。
「作戦変更は無いぞ!奴らを地雷原に誘き寄せる!120mm準備はどうか?」
「弾着位置、観測を完了しております!集中砲火いつでも可能です!」
観測兵が間髪入れずに応える。
「ってー!」
ヴェルナー少佐の砲撃命令と共に120mm砲が咆える!

「何だ!一体何があったんだ!」
ドルフェス大尉がATフライに確認する。
「わ、判りません。閃光が・・・走った後には・・・。」
状況を把握する事の出来ない回答だった。
その刹那、四方八方に爆発が起こる。900Kg爆弾とは異なる敵からの砲撃だった。この時ドルフェス大尉は悟った。
“・・・近い・・・敵の防衛部隊が到着したか・・・”
「索敵、何か判ったか?」
ヴェルナー少佐がスネークガンナーで索敵中の部隊員へ通信機越しに問う。
「いえ、何も・・・。少佐、戦車からの砲撃だったのでは?」
「馬鹿を云え。機動力の劣る戦車からの砲撃であれば森林の影に入る前に確認出来ている。」
「高機動型の新型戦車の可能性は・・・?」
部隊員の質問にヴェルナー少佐は無言だった。
“それは無い。ATの機動力を上回る陸戦兵器など・・・”声に発する事は無かった。

第十四強襲機甲部隊が独自開発を行なったAT用自走砲は確かに速かった。
RS部隊や第七二強襲機甲部隊より一足先に森林内へと突入を果たしていたのだ。
しかし、壱度その自走砲で森林内に突入すれば樹木の群れを躱す事が困難となった。
直進性重視である自走砲では対応出来なかったのである。
樹木を躱した先に再び樹木、それも大木だ。自走砲と共に衝突する無様な光景に部隊長のライト大尉が云う。
「自走砲は擱いて行け!後で回収すれば良い!」
ライト大尉の言葉に自身のATをデムロアの大地に降り立たせる部隊員達。
ライト大尉が続ける。
「ビルギギンに一番乗りするは我々第十四強襲機甲部隊なるぞ!前進!」
ライト大尉の言葉に部隊員は喊声を上げる。
「くくく、笑わせてくれるぜ。」
RS部隊、ディアッカ小隊の小隊長ディアッカ・ファーロ伍長がふてぶてしく笑みを漏らして続ける。
「共通回線で云う言葉じゃねぇな。」
この言葉にディアッカ小隊の小隊員サイア・キルセイド上等兵が云う。
「共通回線だからこそ云ってるんじゃないですか?この位置から狙撃します?」
「くくく、愉しみは残しておけよ。」
ディアッカ伍長が不気味な笑みを浮かべて云う。
その頃、上陸を果たし翼を休めるオバノーの上空に降下してくる後続部隊の姿が確認された。
ミーマ大尉がレオノ大佐に告げる。
「予定時刻を40分遅れておりますが後続部隊の到着です。」
「地上戦艦を5隻上陸させるのだ。・・・仕方あるまい。」
「あの大型揚陸艇は・・・。」
ミーマ大尉は後続部隊の標された資料に目を向けながら云う。
「第三八〇特殊技術試験隊の奴らだよ。煩くなるぞ・・・。」
レオノ大佐が舌打ちしながら云った。
「しかし、揚陸艇は2隻ですが・・・。」
ミーマ大尉が不信感を懐いていた。
「第三八〇特殊技術試験隊め・・・大勢引き連れて来おって・・・。」
レオノ大佐は歯噛みした。
その第三八〇特殊技術試験隊から通信が入り、オペレータからレオノ大佐に声が掛かる。
「レオノ大佐だ。」通信マイク越しに応えるレオノ大佐。
「第三八〇特殊技術試験隊のカルマン・トムス技術中尉です。」
何とも云えない耳障りな声にレオノ大佐は眉を吊り上げた。
「何の用だね、カルマン・トムス技術中尉。」
「早々に確認したい案件が御座います。特殊チャフ、新型集束爆弾、新型燃料気化爆弾の効果は如何だったでしょうか。」
「特殊チャフは効果絶大だよ。お蔭で無傷で奇襲攻撃を成功させたよ。」
「ほぅ・・・。」
「生憎だが新型集束爆弾と新型燃料気化爆弾は粗同時に使わせてもらった。」
「でしょうな・・・。上陸地点を視れば一目瞭然です。
しかし、困りますなぁ大佐。あの爆弾は別々に使って頂かなければ・・・。データ収集に問題が生じます。」
カルマン技術中尉が胸座を掴む様な口調で云う。
「仕方あるまい。別々に使用している余裕など無かったのだ。」
レオノ大佐の言葉の後にミーマ大尉が続く。
「カルマン技術中尉!貴様も此方の船に同乗すれば良かったではないか!その場で指示が出せたものを後方から降下しておきながらっ!」
「止めろ、ミーマ大尉。何れにせよ報告書は提出させる。それで良いかな?カルマン技術中尉。」
「ま、報告書を待ちましょう。」
カルマン技術中尉は一方的に通信を切った。
「大佐!良いのですか?」
ミーマ大尉は怒りを抑え切れぬ様子だったが、レオノ大佐は無言のまま目を閉じた。
AT部隊が降下に使用した揚陸艇よりも大型タイプのものが2隻上陸を果たしていた・・・。
ATを輸送車両ごと載せて降下する能力を有しているが、支援火器が無く装甲板も薄いために後続部隊としての降下にしか運用されていないのが現状だ。
しかし、レオノ大佐の判断に誤りがあった。
2隻中1隻はカルマン技術中尉率いる第三八〇特殊技術試験隊のものであったが、もう1隻は秘密結社のグループ員が搭乗していたのだ。
この事実をカルマン技術中尉とRS部隊のペールゼン大尉、リーマン少尉以外に知る者は無かった・・・。
その揚陸艇内で秘密結社のキッデル・トガル中尉がグループ員と小声で話していた。
「ペールゼン大尉の実験データ。間違いなく収集出来るのだろうな。」
トガル中尉が問う。
「それは問題ありません。ご安心を。」
「我々秘密結社が独自に開発する類人兵器。そのためのデータ収集になるのだ。泥るなよ!」
トガル中尉が凄む。
そのトガル中尉にセルジュ・ボロー少尉が声を掛けてきた。
「中尉、ペールゼン大尉から何時連絡が入るかもしれません。ご遠慮頂きたい。」
「判っているよ。」
そう云い残してトガル中尉は自身の席へ戻った。

その頃、スネークガンナーの120mm砲は観測通りに砲撃を続けていた。
スカイフォーク部隊は左右から徐々に追い詰められていたのだ。
ドルフェス大尉がATフライに告げる。
「オバノーに帰還しろ!」
「た、隊長!何を云われますか!敵の位置を確認したのです!これより攻撃に向かいます!」
ATフライのパイロットは云う。
「帰還しろ!これは命令だっ!」
ドルフェス大尉がパイロットからの言葉を一蹴する。
「りょ、了解。」
生き残ったATフライ全機が帰還のため戦線を離脱。
ドルフェス大尉は不穏な空気を察知していたのだ。
宇宙戦での戦艦によるエネルギー砲にも思える程の高エネルギーを観測。その観測後にATフライ4機からの通信が途絶えた。
ドルフェス大尉は思う。
“・・・後方からの攻撃・・・友軍が位置する方向からの攻撃だった筈だ・・・”
その時、ATパイロットから通信が入る。
「隊長、我々の位置をここまで正確に・・・。」
「自動防衛機構だ。我々の位置を観測兵にフィードバックしている筈だ!」
この言葉を訊き、他のATパイロットが割って入る。
「しかし、野砲による損害はありません。」
「誘っているんだよ。大半が一箇所に集められている・・・。」
ドルフェス大尉が応えた。
「集めておいて最後に一撃を喰らわす積もりでしょうか!」
「隊長!散開しましょう。このままでは共倒れになります!」
「他のAT部隊が後方から接近している。敵も確認している筈だ。・・・最後に一撃・・・違うな。この先に何かあるぞっ!」
「後方のAT部隊に連絡を!このままでは損害が大きくなります!」
そのスカイフォーク部隊から後方2kmまで他のAT部隊が接近していた。
自走砲を放棄した第十四強襲機甲部隊は、何時の間にかRS部隊に追い抜かれていた・・・。

ヨラン小隊は、部下達RS部隊と300mの間隔を保ちながら並走。
ペールゼン大尉に直接回線による通信が入った。
「私だ。」
不気味なまでに低い声で応答するペールゼン大尉。
「カルマン・トムス技術中尉です。」
「上陸したか。奴らもか?」
「秘密結社の揚陸艇も上陸しております。実験開始・・・宜しいのですかな?」
カルマン技術中尉が問う。
「無論だ。此方より指示を出す。予定通りに動けば良い。」
ペールゼン大尉の冷たく無表情な・・・尚且つ邪悪な面を感じ取れる口調・・・。

戦場と云う地獄の中に、もう一つの地獄が口を開けようと・・・それはデムロア攻略戦の真っ只中で・・・。



━ 第二章 「上陸」 完 ━