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デムロア攻略戦

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第四章 怒涛

ゲイル小隊3機のATが密林地帯を抜けるとそれまでの光景が嘘の様に一変した。
葦一本確認の出来ない砂漠化した大地。
無論、侵攻するに従って状況も変化を見せる事であろう・・・。
密林を抜けた辺りは緩斜面のため比較的機体への衝撃は緩和され、密林地帯の悪路に比べれば舗装路を走らせる程の違いだった。
しかし、ATで自走し続ければ、パイロットの身体を粉砕しようとする衝撃に耐えられなくなるのが現実だ。
特殊AT部隊の大半が使用するHANS(HeadAndNeckSupport)や特殊シートベルトを用いても何れ身体が悲鳴を上げる。
・・・常人であれば・・・。
そうだ、常人でない特殊AT部隊・・・RS部隊・・・。そのRS部隊の訓練は常人には理解し難いものがある。
室温75度にも達する個室での強化訓練はその代表格とも云え、
この強化訓練により心拍数195を超えても、彼らRS部隊員は通常会話が可能である。
その鍛え抜かれた肉体と精神の更なる延長線上にRS部隊の駆るATがある。
故に彼らの力と技は天地に無敵となるのだ。
彼らRS部隊の強化訓練、その義務付けされた訓練の一部に触れてみよう。
高温障害により倒れる隊員も少なくないRS部隊強化訓練所の1つ。
数ある訓練所の中で過酷さだけを考えれば5本の指に入る義務付けされた訓練である。
高温多湿、室温75度に達する室内での8km長距離走、1km障害物走、
ウェイトブリッジ(ギルガメス連合制式ロケットランチャーGCS-79を使用)等の各種ウェイトトレーニングを行なう。
定められた時間内で完遂出来ぬ場合はクリア出来るまで何度でも繰り返さなければならない。
発熱からの脱水と末端血管の拡張により血液循環量が減少し、失神する隊員・・・。
視床下部の温熱中枢まで障害が及び体温調整機能損失で倒れる隊員・・・。
無論、死亡者も続出したが中止される事は無かった。
此処を通過する隊員達は心拍数195から200を超えても尚通常会話が可能となるのだ。
他にもギルガメス連合制式戦闘機を大気圏内外で月間100時間以上の飛行が義務付けられている。
これは耐G強化訓練でありATパイロットが戦闘機で訓練する事に異質を感じるだろうが、これにより強靭な心肺機能を手に入れているのだ。
又、宇宙空間での孤独に耐えるために無光無音の感覚剥脱室に月間6日籠らなければならない。
時間で定められた訓練では無く、開始した場合に感覚剥脱室を規程の6日間が過ぎるまで決して出る事は赦されない。
しかし、訓練を積んだ宇宙軍戦闘機パイロットで4日が限界と云われており、RS部隊にも発狂して再起不能に陥った隊員は少なくない。
その様な隊員はRS部隊に不適合となり間引きされる。
病院送りではなくその場で射殺されるのだ。
しかしながら、RS部隊の規則書を確認するとその様な義務付けされた文言は皆無である。
起床、就寝に規程の時間は定められておらず戦闘訓練等も参加は自由とされているのだ。
無論、これを真に受けて何もしなければ身体は衰弱し出撃命令が下った際には即戦死に繋がる事であろう。
故に、その旨は全隊員が承知の上であり、義務付け訓練等は暗黙の了解としてプログラムされているのだ・・・。
第二四メルキア方面軍戦略機甲兵団。RS部隊もこの兵団に所属している。
メルキア星デライダ高地に専用基地が建設されているがRS部隊のみ惑星オドンに専用基地を所有していた。
無論、この基地内に訓練所が設けられている。
このRS部隊専用基地は軍上層部でさえも把握出来なかった秘密基地である。
大気圏に特殊チャフがばら撒かれていて、電離層は二重となっている。
外部からのレーダー探査を無効とし、地上とも一切の交信が不可能であった。
・・・惑星オドン・・・大気組成はメルキア星に酷似している。
高緯度地方一帯に繁茂する密林によってメルキア星よりも酸素量は多いが、炭素の比率も多いため微量ではあるが有害ガスが混じっていた。
完全な生命維持装置を有していない限り基地外での生存は困難を極めるだろう。
だが、最も過酷な点は重力にある。
メルキア星の1.2倍以上と云う数値がそれを物語っている。
この重力数値を上回る惑星も存在するが、まともな地上戦は不可能であり惑星オドンの重力数値が所謂地上戦限界値と云われていた。
勿論、この重力下での順応にはかなりの時間を必要とする。
しかし、順応してしまえば強力な武器となる事は云わずもがなであり、他惑星では想像以上に動き回る事が可能となるのだ。
・・・史上最強の特殊部隊・・・RS部隊・・・それは只管耐えざる訓練と精神の強化によってのみ実現する・・・。

デムロア星特殊防衛部隊基地に警告灯が点滅した。警戒線に設置された観測センサーからのフィードバックだ。
「少佐!本部へ連絡の前に一戦交えなければ・・・。」
部隊員からの言葉が届く。
「詳細を!」
ヴェルナー少佐は問う。
「敵機は3機・・・いえ!6機です!・・・前方3機走行速度はおよそ97km/h、後方3機・・・110km/hに達しています!」
「通常のATで可能な速度域では無いな・・・。」
ヴェルナー少佐は付け加える。
「諸君!接近戦に備えろ!今迄の奴らとは違う!気を引き締めろ!」
ヴェルナー少佐の指示が飛んだ。
その頃、ゲイル小隊3機はシーフィルム川まで約1kmに迫っていた。
「何の用だ!」
ゲイル特技下士官が通信機越しに云う。
「ゲイル!貴様らのチームは機体重量オーバーも甚だしいぞ。」
グレゴルー伍長が応える。
「貴様らだけで潰せるとでも思っているのか?」
バイマン上等兵が続いた。
「何の事だ。」
ゲイル特技下士官が躱す。
「とぼけるな!マップファイルを確認すれば防衛部隊の基地なんざ直ぐに判るぜぇ!」
グレゴルー伍長が呻く。
「ふっ、では貴様らが後方支援でも?」
とゲイル特技下士官。
「それは貴様らの仕事だ!大砲担いだATなんざ掩護専門に遣ってろ!」
ムーザ上等兵が嫌味を込めて云う。
「勝手にしろ。」
ゲイル特技下士官は抑揚無く応えた。
事実、ゲイル小隊の機体重量はグレゴルー伍長が指摘した通りである。
武装類一切を排除すればRS部隊STTC亜酸化窒素使用時の限界速度は145km/hであるも、兵装差異で各々の限界速度は変化する・・・。

次々と基地の門を出る防衛部隊。
スネークガンナー操縦士にヴェルナー少佐から指示が飛ぶ。
「ダスト・トゥ・ダストで先制攻撃。上手く行けば大半を薙ぎ払える。」
「了解!」
ヴェルナー少佐率いる特殊部隊が得意とする戦術であるが、デムロア星に配属命令が下ってからは実戦で用いられる事は一度も無かった。
敢えて云うならば訓練で実施されていたに過ぎない。
しかし、遂にそれは発動したのだ。
部隊員達はデムロア星配属後にして初めての重苦しい空気を肌で感じ取っていた・・・。
丁度その頃、ビルギギン指令本部にルーウェン大陸各国から緊急入電が届いていた。
「閣下!衛星軌道上にギルガメス連合軍機動艦隊が集結しています!」
「ビルギギン上陸部隊とは別働の艦隊です!」
「オスマス、ジームラ、クチラビア、ガナイ、ソロン・・・各国から入電!・・・閣下、ご命令を!」
「直ちに対軌道大型ミサイルの発射命令を!閣下!」
慌てふためく指令本部。マントヴァ中将は指令席に腰掛け終始無言で前面大型スクリーンモニター
を見詰めていた。
ややあって視線を変える事無くマントヴァ中将が切り出す。
「軌道ミサイルであれだけの機動艦隊を相手にする積もりかね?報復は無数の軌道爆雷だぞ。」
「し、しかし閣下!何もせずに敵からの攻撃を待つのですか!」
「本国への上陸は既に完遂している。故に現在集結している艦隊は他国への上陸部隊だろう。」最後に付け加える。
「各国に通達。[本国は既に敵の上陸を赦し地上戦に突入している。故に本国は敵艦隊への対応を不可能とする。
遺憾ながら各国皆の健闘を祈る。マーティアルのご加護を。] 以上だ。」
云い終わるとマントヴァ中将は目を閉じ青息吐息を漏らした。
「か、閣下!軌道ミサイルは本国にしか・・・!」一人の部下が激しく身を乗り出す。
しかし、胸元で行く手を遮る上官の左腕に気付いた。
「閣下は泣いておられる。それが判らんのか。」その上官は潜めて云った。
上官の言葉でマントヴァ中将の強く握られた拳が目に入った。
爪が食い込んだのだろうか、それ以上無く握り締めた指の隙間から血が凝固していた。
・・・慚愧に堪えない・・・そうであったに違いない。
「ば、馬鹿な!少しでも敵艦隊を撃沈しておかねば・・・。」
「敵が本土上陸を果たしたら・・・我国の軍事力では歯が立たんぞ!」
「降伏は無いが死所も得られん!刺し違えて死ねと云うか、ビルギギンは!」
ルーウェン大陸各国の元帥、長官らは口々に反論する。そこにマントヴァ中将からの追伸が届いた。
内容は以下の通りである。
[我々は死に場所を得たのだ。だが、最後の一兵になろうとも私は本国を離れん。ギルガメス連合の戯けどもに誇りあるバララント軍兵士の死に様を見せてくれる。
]
この追伸に、ならば何をか云わんとばかりに各国の反論は鎮まった。
ビルギギンが“その積もり”であれば“死んでくれと云うなら死んで見せよう”と覚悟を決めたのだ・・・。


第二三メルキア方面軍オルクハント装甲騎兵団並びにギャランド機甲大隊、
第三六メルキア方面軍機甲兵団、第三七メルキア方面軍装甲騎兵連隊、メルキア惑星占領軍第八四装甲騎兵連隊と云った精鋭部隊が
ルーウェン大陸のオスマス、ジームラ、クチラビア、ガナイ、ソロンに対する上陸作戦の決行を前にデムロア星衛星軌道上で待機していた。
ビルギギン王国に対しての上陸部隊とは別働隊であるが、軍事勢力を保持したルーウェン大陸他国への上陸は軍上層部より必須とされた。
無論、最も苛烈を極める戦場がビルギギン王国となろう事は誰しもが予測出来たが、
軍上層部の抜擢した特殊AT部隊から外された事に苛立ちを隠せない別働隊の隊員らは、揚陸艇にて待機するATコクピット内で言葉を交わしていた。
「何故、俺達はジームラに上陸なんだ?」
「抜擢された精鋭部隊はそんなに凄ぇ奴らなのかよ・・・。」
第二三メルキア方面軍ギャランド機甲大隊の隊員らが吠えていた。
そこにハミルトン小隊の小隊長であるティア・ハミルトン少尉が割って入る。
「文句ばかりかい?与えられた命令を実行するのみ。泥って死ぬんじゃないよ!」
ティア少尉は装甲騎兵隊員に珍しい女性ATパイロットである。荒くれ者が集まるAT部隊を女性が率いいているのだ。
それ相応の実力者と推測するは難しく無いであろう。
「小隊長の云う通りだ。俺達は俺達の遣るべき事を遣ろう。」同小隊のアズライト・フィクス上等兵が云う。
「了解!俺達をビルギギン上陸に抜擢すべきだったと後悔させてやるかぁ!」
「良いね!それで行こう!」ティア少尉が微笑んだ。
・・・秘密結社の一部が開発を目論む類人兵器計画・・・。
彼女ら第二三メルキア方面軍ギャランド機甲大隊第七中隊ハミルトン小隊にその白羽の矢が立つ事になろうとは・・・。
・・・現時点で知る事など、誰が出来たであろうか・・・。

主桁が鋼鈑から成り車両などを通行させる床版はコンクリートによって造られた桁橋が、シーフィルム川を乗り越えるために建造されている。
主桁と床版が一体式で結合され大荷重に耐え得る強力な合成桁橋だ。
デムロア星特殊防衛部隊に余り得る時間が存在したのならば惜しみ無く破壊すれば良かったであろう。
追跡部隊がシーフィルム川を渡るには、特殊な装備・・・それこそ水陸両用兵器でも無い限り実行不可能だからである。
しかし、損傷した車両とATに加え、負傷兵を抱えた彼らにそんな猶予は無かった。
それにこの合成桁橋を破壊するには本部から大量の爆薬を調達しなければならなかったのだから・・・。
グレゴルー小隊がゲイル小隊を追い抜き合成桁橋を通過。
それまでの砂砂漠による地盤とは一変、球体状の小石が散乱しており路面摩擦係数は極端に低下した。
それをグレゴルー伍長が警告する。
「グライディングホイールの空転を検知した。速度調整に注意しろ!」
「へっ!んな事ぁ云われなくたって承知してらぁ!」
バイマン上等兵がふてぶてしく応えた。
「ゲイル。貴様らの過重機体、一度滑り出したら止まらねぇぜ。無様に転倒しやがったら赤肩ぁ外させるぞ!」
グレゴルー伍長の挑発。
ゲイル特技下士官からの応答は無い。
「訊いてんのか!」
ムーザ上等兵が呻く。それでも応答は無かった。
ややあって彼らは緩斜面から40度近い急斜面に突入した。
新兵には走行不能な傾斜角だ。
しかし、彼らのATは脚部ロケットエンジンを通常の液体酸素に切替えただけでアクセルペダルは全開のままだった。
それは正気の沙汰と思えぬ速度域。前方に倒れ込んでも不思議ではない程に機体を前傾維持している。
「敵影確認!」
ムーザ上等兵が云う。
「ゲイル!貴様のロングレンジで詳細を教えろ!」
とグレゴルー伍長。
「スカラベタイプが6、ガンナータイプが4・・・1つ目が・・・20・・・いや・・・30機近いか・・・。」
クエント製レンズを採用したオプショナルレンズが装備されたゲイル特技下士官機。
12郡16枚のレンズを有しており中長距離の索敵に特化している。
純正標準レンズ部に専用アタッチメントで取り付ける事が出来るのだ。
「上等だぜ!愉しませてくれよぅ!」
ダフィー上等兵が云う。
ヴェルナー少佐も砂塵を巻き上げて滑走してくる敵影を確認した。
「ダスト・トゥ・ダスト、タイミングを誤るなよ!」
ヴェルナー少佐が確認する。
「了解!」
スネークガンナーの砲兵が応える。
ヴェルナー少佐がミサイルポッドのトリガーに指を掛け照準を合わせた・・・。
砂塵を巻き上げながらも、ゲイル特技下士官は前方を行くグレゴルー伍長らの機体に微妙な横滑りを確認した。
「グレゴルー・・・貴様らTCSをOFFのまま走行しているのか・・・。」
ゲイル特技下士官が問う。
「当然だなぁゲイル!これ位の路面でアシスト機構など無用だぜ。」
とグレゴルー伍長。
「呆れた奴らだな。」そう云うとゲイル特技下士官は付け加えた。
「ゲイガン上等兵、ダフィー上等兵。直ぐにTCSを解除しろ。」
「了解!」余裕の笑みを浮かべて二人は応える。
「無理するなよ。転倒しても責任は負わねぇぜぇ!」
いつもの嫌味台詞を云うバイマン上等兵。
「ぬかせ!」
ゲイル特技下士官が珍しく挑発に応えた。
TCSとは、TractionControlSystemの略でありグライディングホイールに伝わる駆動力が時として走行路面の摩擦係数との関係により
空転を引き起こした場合に、機体速度と各グライディングホイール回転速度等から空転を検知して駆動力の低減・調節で空転状態を解除する制御機構の1つだ。
パイロット技量とは独立してATの安定性をコンピュータが担当する訳であるが、グレゴルー伍長らは自身でアクセルペダルの微調整を行なっていたのだ。

ヴェルナー少佐は経験値の全てを注ぎこれ以上無いタイミングとしてトリガーを引いた。
2基のミサイルポッドから全弾6発が炎尾を曳いて飛ぶ。
「あぁ?どこ狙ってやがる!」
とバイマン上等兵。AT走行方向に対する予測撃ちにしては明らかに前方過ぎる・・・。
斜面の切れ目が天に向かっている。そこをグレゴルー小隊とゲイル小隊は目指した。
着弾!集中型焼夷弾が炸裂。
間髪入れずスネークガンナー120mm砲が火を噴く。120mm砲は焼夷弾着弾地点より後方を集中砲火した。
これがヴェルナー少佐率いる防衛部隊必殺のダスト・トゥ・ダストであった。
セオリーはこうだ。
焼夷弾の火炎は尋常で無く、辺りの温度は1,000度を超える。
眼前に拡がる火炎にアクセルペダルは全閉、或いは急停止を試みるだろう。
先に放たれる焼夷弾は相手の動きを鈍らせる事を担当する。
無論、焼夷弾でATの破壊など考えていないのだ。
本命は次弾にある。
120mm砲は実に強力であり直撃すればATなど木端微塵に粉砕するだろう。
そうだ。直撃でなくても構わない。
敵機を損壊させ抵抗力を削げば充分なのだ。
スカラベとブロッカーがその後を引き継いで壊滅させるのだから・・・。
着弾した焼夷弾と120mm砲の赤黒い火炎が辺り一面に捲れ上がっていた。
ヴェルナー少佐とその部下達は火炎の中を凝視・・・。
しかし、火炎を切り裂き3機のATが斜面を利用して跳躍。
「ちっ!」
ヴェルナー少佐の舌打ち。
2秒遅れて3機のATが跳躍する。過重機体が相俟ってか先陣を切ったATよりも跳躍高は低い。
「馬鹿な・・・1機も損壊無しか!」
120mm砲兵が洩らした。
「全機突撃!」
ヴェルナー少佐は落ち着きを祓って命令する。指揮官が高ぶっては部下達を不安にさせる。その事を痛感させた過去の過ちを拭い去るかの様に・・・。
部下達も期待に応えようと喊声を上げた。
聊かも姿勢を崩さず着地する6機のAT。間髪入れずアクセルペダルを全開と同時に亜酸化窒素切替えレバーを引き上げた。
ムーザ上等兵機が遠心力を薙ぎ払うかの如く機体を限界超えても尚傾ける。神憑った操縦思慮としか云い様が無い。横Gは有に4Gを超えている。
ブロッカーのパイロットが照準を合わせられない。敵機がモニターに迫る!
ムーザ上等兵機のGAT-22-Cヘヴィマシンガン改が咆える。通常のGAT-22をショートバレルに変更しているが故に接近戦重視だ。
これはムーザ上等兵の真骨頂である。
ブロッカーが火の玉と化す。
そのブロッカーを左にして交錯の際にビューファインダー右隅の敵影を確認、機体下肢を踏ん張り右脚を軸にハーフピックターンで方向転換する。
この動きをブロッカーパイロットは予測し得なかった。
“あれだけの速度域で・・・。”
言葉にならず・・・いや、思ったか否かも不明だ。既に火炎に包まれていたのだから。
ハーフピックターン・・・。
機体踝部ターンピック基本動作の応用であり、ピックを完全に打ち込むのでは無く直前で保持させる。
その効果は急制動より寧ろ華麗な方向転換として強力に作用するのだ。
ムーザ上等兵が1機を葬り2機目を血祭りに上げるまで3秒と掛かっていなかった。
ゲイル特技下士官がGAT-30を放つ!狙いはスネークガンナーであった。
1両目を左斜めから貫通したエネルギー弾は衰える事無く貫通先のスカラベ1両を爆発炎上させた。
「照準より右に逸れる・・・。砲身の冷却が間に合っていないか。」
ゲイル特技下士官が呟く。
そのゲイル特技下士官機を右から抜くダフィー上等兵機。
彼の機体が装備するGAT-32フェーザーグレードガンも、カルマン技術中尉の第三八〇特殊技術試験隊より試験運用を任された試作兵器だ。
大口径から放たれるエネルギー弾は特殊保護膜によって包まれた状態にある。物理的接触で保護膜が砕けエネルギーを一気に放出させて接触物を粉砕する。
GAT-30が弾丸を形象させるならばGAT-32は爆弾を形象させると云うべきか。
エネルギー放出地より半径20mをキルゾーンとする強力な兵器である。
スカラベがダフィー上等兵機に照準を合わせる。不規則な蛇行でスカラベを迎え撃つダフィー上等兵。
一瞬ダフィー上等兵機が直進に切り替え発砲。間髪入れずにグライディングホイールを反転させ機体を後退させた。
眩い光と共にスカラベが木端微塵に砕け散る。
放出されたエネルギーがキルゾーン内のスカラベ1両とブロッカー2機を葬った。

荒れ狂う大波となって激しく打ち寄せるRS部隊機。
それは・・・怒涛の様に・・・。

「盲撃ちで構わん!敵の動きを鈍らせるだけで良い!パンプキン伍長、ダイク上等兵、10時方向のATに集中攻撃を!先制は此方が!」
スカラベ操縦士はブロッカーのパイロットに云う。
「了解!ダイク、私の後方から来い。敵機が減速するところを狙撃しろ!」
「任せてください!」
スカラベは37mm二連装砲を盲撃ちしたが、それを物ともせず敵ATは接近してくる。
「なかなか良い腕だ。」バイマン上等兵が呟く。
バイマン上等兵はビューファインダー左右隅より敵ATの接近を確認した。
右側から接近するブロッカーはガトリングガンをフルオートで掃射する。その刹那、砂塵が巻き起こり数秒であるが視界ゼロと化した。
「な、何?煙幕の積もりか!」
ダイク上等兵が云う。バイマン上等兵が左腕に装着された小型アームソリッドシューターを地面に乱射したのだ。
パンプキン伍長は砂塵の境界線左に、ダイク上等兵は右に視線を集中させた。飛び出す瞬間を待ったがそれは直後にやって来た。
予想を反して敵ATは彼らの真中を抜けて来た。
「しまったぁ!」パンプキン伍長が絶叫した。
亜酸化窒素により暴力的な加速を見せるバイマン上等兵機。パンプキン伍長機が右側に機銃を向ける。
「あぁぁぁ!」その悲鳴は爆発音に掻き消された。
至近距離から放たれたSAT-03ソリッドシューターがパンプキン伍長機を粉砕したのだ。
口径60mmから成る電磁加速で弾体を放つリニアガンであるが、弾体に幾つかの種類が存在しておりロケット弾を使用する事も可能である。
その場合、後方へのロケット噴射で発射時反動を相殺させる事が出来るのだ。
バイマン上等兵は60mmロケット弾を使用していた。
「パンプキン伍長!」ダイク上等兵が叫んだ。
即座に照準を合わせたが敵ATの左腕が自身に向けられていた。
ダイク上等兵がトリガーを引く前に閃光が走る。
「くっ!」小型アームソリッドシューターの砲弾が機体に被弾。貫通した砲弾の破片がダイク上等兵を襲う!
その反動で体勢を崩すダイク上等兵機。激痛を無視して転倒を避ける。
「頑張るじゃねぇか。」
バイマン上等兵は云いながらダイク上等兵機の後方へ回り込んでいた。
「あばよ!」
バイマン上等兵がSAT-03を放つ!
バックパックの爆圧はコクピットを後方から襲った。
スカラベの砲兵らは一瞬たりとも仲間の死を悼む事など赦されなかった。
敵ATが迫る!
「く、来るぞ!」2機のブロッカーが葬られる僅かな時間を掩護すら出来なかったスカラベが盲撃ちする。
クロスレンジ内でATとの戦闘は避けたいが後退の猶予は無かった。
しかし、不規則運動を繰り返しながら接近するものと思われた敵ATは微妙な蛇行でありながらも粗直線的に接近して来る。
「な、なめやがって!」スカラベ砲兵が照準を合わせトリガーを引いた!
照準は正確であり、砲弾は敵ATのコクピット辺りに吸い込まれて行く。
爆発、直撃!
・・・しかし敵ATは健在だった。
直撃寸前に機体を滑らせたのだ。右脚は完全に前方へ伸ばされ左脚はコクピット付近まで折り曲げられていた。
左腕肘部が地面に接触しながらの滑走故に右腕に構えたSAT-03で照準を合わせる。
機体を滑り込ませながらも砲弾を放つバイマン上等兵。信じられぬ光景にトリガーを引く指が止まるスカラベ砲兵。
激しい振動で我に返ったが全ては遅すぎた。スカラベは直撃を受け爆発炎上、そして四散した。
伸ばした右脚ターンピックを完全に打ち込むバイマン上等兵。ピックを支点に機体が浮き上がる。間髪入れずに左腕アームパンチシステムを地面に放つ。
機体が更に浮かび上がった瞬間、左脚を地面に着かせ鮮やかに立ち上がる。
直ぐにグライディングホイールを高速回転させ、脚部ロケットエンジンの点火で次の獲物に襲い掛かった。
目を見張る抜群の操縦思慮である。

既にスカラベは残り2両となった。その内1両がゲイガン上等兵機に照準を合わせる。
37mm砲がゲイガン上等兵自主製作のシールドに命中。僅かに機体が姿勢を崩す。
「勝機!」
ゲイガン上等兵機の右斜め後方からブロッカーが迫る!
右脚を軸にスピンターン、ブロッカーに対しシールドを前面に突き出した。
衝突させる気か!
ブロッカーパイロットは機体を前傾させアクセルペダル全開で体当たりさせた。
シールドに接触の瞬間、ブロッカーパイロットは奇妙な感覚に捉われた。接触衝撃に備えていたが抵抗無く機体が前に躓く感覚だった。
それもその筈だ。
接触寸前にゲイガン上等兵はシールドアタッチメントを火薬力で除装していたのだ。
「野郎!」
慌てふためき機体の転倒を避けるブロッカーパイロットが叫ぶ。
しかし、ゲイガン上等兵機は既にブロッカーの左横に移動していた。GAT-22を掃射するゲイガン上等兵機。
「うぁぁぁ!」悲鳴はスカラベ操縦士の通信機にも届いたが大きなノイズと共に途切れた。
スカラベは全速力でゲイガン上等兵機に突撃した。
車輪に伝わる外力変化は直接車体に伝達される。故に激しく揺さ振られる状態での発砲は命中精度を著しく低下させた。
スカラベやスネークガンナーにはこれを改善すべくスカイフック理論に基づいたアクティブサスペンションが装備されている。
これにより、それまでの戦車とは桁違いの命中精度を誇っているのだ。
不規則な蛇行でスカラベに接近するゲイガン上等兵機。
クロスレンジは距離にして40mと迫った。
ゲイガン上等兵機はスカラベを軸として円形運動に切替えた。
確実に目測を狂わされたのはスカラベであった。敵AT移動方向とは全く異なる位置に砲弾が集中する。
「離脱しろ!そのまま離脱するんだぁ!」
スカラベを救おうとブロッカー3機が後方から接近した。
「離脱など有り得ん!・・・うおぉぉぉっ!」
スカラベ操縦士は雄叫びを上げる。
しかし、ブロッカーがクロスレンジに突入する直前で大破した。
「くっ・・・糞ったれがぁ!」
ブロッカー3機がガトリングガンを乱射しながら突進する。
ゲイガン上等兵機バックパックの通常であればミサイルポッドを装着する箇所。
そこにSAT-03を固定させるブラケットが組み付けられていた。
火薬力でそれを除装し機体の軽量化を図る。
蛇行しながらブロッカー3機を迎え撃つゲイガン上等兵機。
亜酸化窒素による加速力!ブロッカーが放つ砲弾は虚しく空を切った。
「は、速い!」
絶叫するブロッカーパイロット。
ゲイガン上等兵機と交錯する1機のブロッカーはその瞬間に敵ATが左腕で放ったアームパンチシステムを諸に受け横転。
ゲイガン上等兵は既にそれを見ていなかった。
1時方向のブロッカーだけに意識を集中させていたからだ。
横転したブロッカーと交錯する瞬間に左フロントアーマー部の被弾を確認。その砲弾を放った敵ATを一番に葬り去ろうと云うのか。
「こ・・・こいつ!」
直線的な軌道で接近する敵ATを見て怒りを顕わにブロッカーパイロットが呻く。
「斃れぇ!」
ガトリングガンのトリガーを引く。
照準は敵AT頭部三連スコープレンズに合わせられていた。
ゲイガン上等兵は敵AT銃口の閃光を待っていた。
閃光と同時に降着レバーを引き上げる。
対峙したブロッカーパイロットのビューファインダーに映し出されていた敵ATは、舐め下ろすかの様に消えて行く。
右斜め後方のブロッカーは味方機が敵ATと余りにも接近していたため攻撃が出来なかった。
そのパイロットが叫ぶ!
「ば、馬鹿な!」
ゲイガン上等兵機と対峙したブロッカーパイロットは、この近距離で命中しなかった現実を把握出来ぬまま再びビューファインダーに敵ATが映るのを確認した。
下から舐め上げる様に現れたのだ。
しかし、モニター一杯に映し出されたのはマニュピレーターであった。
引き続けていた降着レバーが解除され機体は瞬時に元のポジションまで復帰。
間髪入れずに左腕アームパンチシステムを相手の頭部レンズ目掛けて放ったのだ。
両者の加速度がカウンターとなって頭部レンズを破壊、更に装甲を貫通しパイロットの頭部を粉砕した。
ゲイガン上等兵機はブロッカーを蹴散らし機体を大きく旋回させ停止した。
横転したブロッカーも立ち上がりを完了させていたがゲイガン上等兵機はそれまで右斜め後方に位置していたブロッカーに照準を合わせる。
急加速と同時にATの重心移動を行い、横滑りさせながら発進するゲイガン上等兵。
ブロッカーが放った砲弾が空を切った。
横転させられたブロッカーも2時方向から機銃を乱射させて接近する。
ゲイガン上等兵はそれを無視した。
亜酸化窒素によって加速する機体へ命中させられるものならさせてみろと云わんばかりに・・・。
不規則な蛇行がそれに拍車を掛ける。
高速機動を維持させながらも照準を絞るゲイガン上等兵。
瞠目に値する驚異的射撃技術。
装甲板を次々と吹き飛ばされながらブロッカーパイロットが叫んだ!
「沈めぇぇぇ!」
乱射する砲弾がゲイガン上等兵機の左肩を掠める。
しかし、最後の一撃を喰らい大破した。止めの一撃は瞬間であるも蛇行から直進に切替えて放たれた。
冷静にこの瞬間を待てればブロッカーにも勝機があったかもしれないが、常人ではその瞬間すら把握出来ないだろう。
残り1機。ハーフピックターンで方向転換、トリガーを引く。
しかし甲高い衝撃音がした。
GAT-22の弾切れだった・・・。
「ちっ!」
ゲイガン上等兵が舌打ち、即座に機体を捻りながら後退させた。
ブロッカーパイロットが相手の弾切れを察知、猛然と突進。
ガトリングガンからの砲弾がゲイガン上等兵機コクピット周辺に集中する。
合金壁を貫いた砲弾の破片が密閉状態にあるコクピット内で弾けた。
「くっ!」
火花が散りゲイガン上等兵の左肩に食い込む。ATパイロットスーツのショルダーパッドを射抜いたのだ。
ゲイガン上等兵は機体右腰部装着の二連装SMMミサイルランチャーを発射した。
1発のミサイルが炎尾と共に飛ぶ!
ブロッカーパイロットは瞬時に機体を傾けた。しかし、被弾して左腕が閃光と共に吹き飛んだ。
左腕大破により姿勢を大きく崩されたが機銃を持つ右腕とスコープレンズだけはゲイガン上等兵機を見据えていた。
トリガーを引く!
照準は正確では無い。しかし、対峙する容であったが故に砲弾は再びゲイガン上等兵機コクピットを襲った。
貫通した砲弾片がゲイガン上等兵の右上膊を掠め血飛沫を走らせた。
ゲイガン上等兵はそれを無視して照準を合わせる。
「あがりだ!」
ゲイガン上等兵が呟く。同時に残弾SMMミサイルランチャーが放たれた。
狙い違わずブロッカーの右腹部に直撃した。間髪入れずグライディングホイールを正回転に移行させる。
装填動作を起動させると左マニュピレーターが左腰アーマー部装着の予備マガジンを掴みGAT-22に生気を吹き込んだ。

半壊状態のスカラベが10時方向のATに照準を合わせていたが返り討ちにされる。虚しく轟音を立てて大破するスカラベ最後の1両。
グレゴルー伍長機ショルダーミサイルポッドから放たれた1発は正確にスカラベを射抜いたのだ。
「死に損ないが!」
グレゴルー伍長がふてぶてしく云う。
大破したスカラベの火炎を切り裂き4機のブロッカーが突撃。
死に物狂いの盲撃ちで接近する!
進行方向を特定出来ぬ不規則な蛇行とハーフピックで物ともしないグレゴルー伍長機。
「はっはっはっは!どこ狙ってやがる!戦い方を教えてやるぜ!」
グレゴルー伍長が吠える。
「バルカンセレクターッ!」音声入力でGAT-22をセミオートからフルオートに切替える!
GAT-22専用システムであり、音声入力での起動と操縦桿での手動起動による二通りの方法がある。
要はパイロットの好みの問題だ。
グレゴルー伍長機の狂った様な蛇行と急加速。ブロッカーパイロットらは敵ATが操縦不能に陥ったと判断した。
「馬鹿め、機体が暴走したぞ!今、沈めてやるぞっ!」
ブロッカーパイロットが云う。
アクセルペダルを踏み込みグレゴルー伍長機に接近する1機のブロッカー。敵ATは依然として此方に背を向けている。
照準を絞る!
「!」信じ難いが敵ATの背面映像がモニター一杯に迫る。敵ATの急速後退だ!
しかし、構わずトリガーを引いた!
グレゴルー伍長の経験値が勝っていた。戦闘時による相手の心理状態を計算しトリガーを引くタイミングより速く重心移動を行なった。
ビューファインダーから右真横に敵ATが消える!
「な・・・!」
現状を把握出来ないブロッカーパイロット。
対応が遅すぎた・・・。
重心移動による右真横への横滑りから瞬時に右脚を軸としてハーフピックターンするグレゴルー伍長機。
それまで背後に位置していたブロッカーは火達磨と化した。
しかし、炎上するブロッカーの右斜め後方でもブロッカー1機が大破した。
百分の一秒も無い刹那の攻撃。
後退し右真横に移動、ハーフピックで背後に位置していたブロッカーに機体正面を向けるまでの途中だ。
その途中でグレゴルー伍長機と対峙したブロッカーに6発の砲弾を放っていた。
・・・一瞬にして2機のブロッカーが葬られたのだ・・・。
残りはグレゴルー伍長機の正面10時方向に1機と2時方向に1機。
距離にして45m。
その時、1機が後退した!
「な、何してる!逃げる気かぁ!」
ブロッカーパイロットが有らん限りの声で叫ぶ。
「冗談じゃねぇ!格が違い過ぎる!機体の性能差だけじゃねぇぞ!」
「馬鹿野郎っ!」
その刹那、警告音が響く!
「うっ!」敵ATの急接近に照準など合わせる時間は無かった。トリガーを引き続けたが敵ATの砲弾が自機に被弾する!
コクピット内に貫通した砲弾片が舞い、コンソールパネルが鮮血に染まった。
その刹那、機体が轟音と共に四散した。
更に、離脱するブロッカーにショルダーミサイルポッドの照準を合わせるグレゴルー伍長。
しかし、トリガーを引く寸前に敵ATが大破した。
正面からバイマン上等兵機を確認。
「邪魔するな!」
グレゴルー伍長が呻く。
「へっへへ、早い者勝ちだぜぇ小隊長!」
にやけたバイマン上等兵の声が訊こえた。
その直後だった。
バイマン上等兵機の左肩に装着したスモークディスチャージャーが砕け散った。その弾みで姿勢が崩れるバイマン上等兵機。
「バイマンッ!」
グレゴルー伍長が叫んだ。
直ぐに姿勢を整えスピンターンするバイマン上等兵機。グレゴルー伍長機も真後ろで停止した。
前方4機のブロッカー、距離95mにしてクロスレンジ内だ。
しかし、蛇行の姿が今迄のブロッカーと明らかに違っていた。
「ほぅ。今度のは威勢が良いじゃねぇか!」
グレゴルー伍長が云う。
防衛部隊のブロッカーは標準陸戦用とは異なり両脚踵部に大型のグライディングホイールを装備している。
その刹那、通信が入る。
「小隊長、出来る奴らが残ったらしいぜ。」
ムーザ上等兵からの通信だ。
「ムーザ。お前ぇは一人なのかぁ?」
グレゴルー伍長が問う。
「へっ!後方にダフィーが居やがるよ。敵AT3機だな。」
応えるムーザ上等兵。
「ゲイル!貴様はぁ!」とグレゴルー伍長。
「ゲイガン上等兵とだ。敵ATは3機。ガンナータイプは全て葬った。」
ゲイル特技下士官が応答した。
「上出来だぁ。行くぜぇぇぇ!」
バイマン上等兵が叫ぶ!
撃破を逃れ残されたブロッカーらは必然的に出来るパイロットの集団に間違いは無かった。
ヴェルナー少佐が命じる!
「一人でも多く地獄へ道連れにしろ!」その言葉に喊声が上がった!
ゲイル特技下士官はGAT-30にエネルギー供給する接続部をバックパックから排除させた。
突然切り放されたメッシュホースからは激しい白煙が噴出されている。
まるで生き物の様に暴れるメッシュホース。
放棄されたGAT-30は地面に落ちたが、その重量を一目で把握させた。銃器の大半が地面に沈んだのだ。
バックパックに装備していたGAT-22-Cヘヴィマシンガン改に変換。
「ゲイガン上等兵、二手に分かれるぞ。私は右舷へ!」
「了解。自分は左舷に!」
ゲイル特技下士官機の機動性がそれまでとは桁外れに違う。明らかに機体総重量が軽減されたのだ。
「バイマン!10時方向の2機は譲ってやる。2時方向の2機は俺が仕留める!」
グレゴルー伍長が云う。
「へっ!了解だぁ。」
ふてぶてしい応答のバイマン上等兵。
「ダフィー、邪魔するなよ!うぜぇ真似したら血祭りに上げるぞ!」
とムーザ上等兵。
「訊こえねぇな。」
抑揚の無いダフィー上等兵の応答。
その刹那、GAT-32が放たれた。ダフィー上等兵機と粗対峙していたブロッカーが狙いだ。
左に機体を捻るブロッカー。直撃は避けたがその後方8mでエネルギーが放出された。半径20mを脱する事は出来なかったのだ。
言葉無くしてブロッカーが蒸発する。
しかし、次弾の発射が無い。
残り2機のブロッカーパイロットは言葉を交わした。
「連射は効かないのか!」
「1機は無視する!奴に攻撃を集中しろ!」
判断に誤りは無い。GAT-30が次弾発射に3分を要するのと同様にGAT-32も次弾までに1分を必要とした。
機動性の低いブロッカーをフルチューンした機体であるが故に通常のATM-09レベルであれば、それを上回る運動性を確保している。
2機のブロッカーがガトリングガンを乱射させて突撃。
右フロントアーマーに1発被弾、コクピットに2発被弾する。
ダフィー上等兵は左腰部に位置するガトリングガンで反撃。それは対峙する左側ブロッカーに被弾、敵ATは急激に速度を落とした。
そのブロッカーに突撃するダフィー上等兵機。左腕に装着させた2本の斜切H鋼。
ダフィー上等兵自主製作白兵戦用の武器だ。
頭部に照準を合わせアームパンチシステムを起動させた。狙い違わずブロッカー頭部に斜切H鋼が突き刺さる。
同時に左腕装着の小型アームソリッドシューターが放たれる。ゲイル特技下士官機やバイマン上等兵機より口径の大きいタイプだ。
H鋼装着によりソリッドシューターはオフセット状態で装着されている。
「アイナーッ!」
ブロッカーパイロットは妻の名を叫びながら絶命した。
ダフィー上等兵機の後方からブロッカーが迫る。
しかし、右斜め前方からムーザ上等兵機のショルダーチャージを受け横転した。
スピンターンと同時にムーザ上等兵がGAT-22-Cヘヴィマシンガン改でブロッカーを葬る。
「あがりだ。貴様にスコアを譲るとはなぁ。」
ムーザ上等兵が云った。
「どうする?」
ダフィー上等兵が問う。
「このまま待機しよう。応援は必要ないだろうぜ・・・。」
応えるムーザ上等兵。

ブロッカーのガトリングガンが閃光を放つ。重心移動で左真横に回避するゲイル特技下士官機。
ブロッカーからは右真横への移動としてビューファインダーに映し出される。
「逃がすかぁ!」
照準を合わせるが、敵ATを見失う。
「!」自身の視線が敵ATを追い越していた事に気付き慌てて視線を左に戻した。
敵ATは両脚ターンピックを完全に打ち込み停止していた。
「ば、馬鹿な!あの急制動の直後に停止させたのか!」
「遅い。」
ゲイル特技下士官が抑揚無く云う。GAT-22-Cヘヴィマシンガン改が1機のブロッカーを葬った。
通常では考えられないゲイル特技下士官機の急制動。機体を停止させられたとしてもパイロットは鞭打ち必至だ。
これはHANS(HeadAndNeckSupport)と云う特殊装備あればこそ実現出来る機体操作であろう。
ヘルメットと首サポーターを伸縮性の低いバンドで繋いでいる。云わば、首の動きを一定範囲内に制約させているのだ。
無論、一定角度までなら首を上下左右に振る事が出来る。
「オットン軍曹!・・・や、野郎!」ゲイル特技下士官機前方1時方向からブロッカーが突進してくる。
ゲイル特技下士官がアクセルペダルを踏み込む。
亜酸化窒素による強烈なスタートダッシュ!間髪入れず不規則な蛇行へと移行する。
ゲイガン上等兵機のショルダーチャージで吹き飛ばされるブロッカー。
仰向けに転倒しパイロットは後頭部を強打した。
遠退く意識を必死で繋ぎ止めるブロッカーパイロット。
しかし、新たな衝撃が伝わり絶命した。GAT-22が止めを刺したのだ。
ゲイル特技下士官機との距離25m。両者はトリガーを引かない。ブロッカーが蛇行から直進に切替えてそのまま突進する。
「貴様だけでも道連れに!」ブロッカーパイロットが叫ぶ。
先にトリガーを引いたのはゲイル特技下士官だった。
コクピットを護る様に両腕を交叉させるブロッカー。各部に被弾したがコクピットは無傷だ。アクセルペダル全開で体当たりさせた。
両者の速度計表示が0を指す。
ゲイル特技下士官は、HANSと特殊シートベルトにより衝突時衝撃は強力に緩和されている。
「ぐっ!」
衝撃でブロッカーパイロットは頚椎部を損傷した。しかし、機体両腰部に装備された11mmガトリングガンを放つ!
高機動型敵ATを仕留めるには組み付かせるしか方法は無いと判断したブロッカーパイロット。
11mmの砲弾が敵ATに命中した。
コクピット下部メンテナンスハッチ辺りから貫通した砲弾片がゲイル特技下士官を襲った。
致命傷では無いが左脚から血飛沫が舞う!
その刹那、ゲイル特技下士官機のコクピットハッチが開かれた。
間髪入れず、マグネット式小型爆弾をブロッカースコープレンズ下部に取り付ける。
瞬時に左腕アームパンチシステムを起動。
その反動でブロッカーが後方に姿勢を崩した。
「うぅ!」この衝撃は頚椎を損傷したブロッカーパイロットに激痛となって襲い掛かった。
ゲイル特技下士官機はグライディングホイールを反転させて後退する。
粗同時に小型爆弾が炸裂した!
スコープレンズは胴鏡部から砕け、装甲板を破壊。
「ぐわっ!」
前方から破片と炎がブロッカーパイロットを襲う。更にGAT-22-Cの砲弾を受けて大破した。
ゲイル特技下士官機の傍にゲイガン上等兵機が歩み寄る。
「小隊長。お怪我は?」問うゲイガン上等兵。
「大した事は無い。」
応えるゲイル特技下士官が付け加えた。
「貴様こそ大丈夫か?」
「オドンでの訓練を考えればこの位は。」
そう云うと二人は笑みを漏らした・・・。

バイマン上等兵機とグレゴルー伍長機が左右から接近する。それまで二手に分かれていたブロッカーがタンデム走行に移行した。
「けっ!4対2の乱戦かぁ?面白ぇ、受けて立つぜ!」
バイマン上等兵が云う。
バイマン上等兵機とグレゴルー伍長機が先頭引きするブロッカーに照準を合わせ左右から迫った。
「皆、特殊ゴーグルを!」先頭引きするブロッカーパイロットのダーク曹長が云う。
「いつでも良いぞ!」最後尾のヴェルナー少佐が応える。
バイマン上等兵とグレゴルー伍長。
二人がトリガーを引く前に、ダーク曹長機右肩部に装着されたディスチャージャー形状の砲が火を噴く。
それはダーク曹長機前方に向かって飛び、直ぐに弾けた。
「!」バイマン上等兵とグレゴルー伍長は意外な攻撃を受ける。
不意の大音響と閃光。
放たれたのはスタングレネード弾であった。
眼前は白闇と化し二人は完全に視覚を奪われてしまった。
バイマン上等兵機は機体を左に、グレゴルー伍長は右へ捻った。
失った視覚は概30秒から1分を経過しない限り元には戻らないだろう・・・。
「ほぅ。互いの衝突を避けるため離脱方向を誤らぬとは・・・。やるな!」
ダーク曹長が云う。
彼ら4機がタンデム走行から2機づつ左右に分かれた。
ダーク曹長とガルシア軍曹はバイマン上等兵機を。ガゼール中尉、ヴェルナー少佐がグレゴルー伍長機に迫る!
ダーク曹長がガトリングガンを放つ。
致命傷では無いがバックパックに被弾、更に右膝関節部に被弾する。
バイマン上等兵が機体を急速後退させる。コンソールパネルから後方警戒距離限界点を報せる警告音が鳴り響く。
「視覚を失っている筈・・・。感覚だけで操縦しているのか!」ガルシア軍曹が驚愕する。
2機は接触を警戒。
バイマン上等兵機から左にガルシア軍曹機、右にダーク曹長機が逸れた。
ダーク曹長は敵ATと交錯直後に機体を左へ旋回させる。ブロッカーはターンピック機構を持たない故にクイック動作は望めなかった。
バイマン上等兵は敵ATと交錯する際、聴覚に意識を集中させていた。
自機を右方向から抜いた機体が旋回を試みている。
彼は経験値から具体的に心の中で状況をイメージした。右手敵ATの位置・・・左手敵ATはこれから旋回しようとしている。
間違い無い!
敵ATの位置する方向へ機体を捻りながら左腰部のガトリングガンを掃射。
ブロッカーの左フロントアーマー部に被弾、左肘部を砲弾が掠める。
「ガルシア、急げっ!」
被弾したダーク曹長が叫び、更に付け加える。
「異常だ!只者じゃない!」
バイマン上等兵機に突撃するダーク曹長。アクセルを踏み込む。
薄らとだが視覚は戻りつつある。しかし、バイマン上等兵機コクピットにダーク曹長が放った砲弾が集中した。
砲弾片がバイマン上等兵右脚脛辺りを掠め血飛沫が舞う。更にコクピット内で弾けた砲弾片が右顳に突き刺さりヘルメットが破損した。
「やってくれるじゃねぇかよ!」
バイマン上等兵はグライディングホイールを正回転に移行、機体を突進させた。
視覚は完璧では無いが、復活を待つ迄の時間も赦されなかった。SAT-03を放つ!
機体を傾かせ躱すダーク曹長機。
左手9時方向からも攻撃を受けるバイマン上等兵機。照準など合わせていないが左腕小型アームソリッドシューターを盲撃ちした。
それが効いた!
ガルシア軍曹は被弾を避けるため機体を減速させた。ほんの数秒ではあるが左方向の敵ATは無視出来る!
ダーク曹長機とバイマン上等兵機が接触する。
交錯の瞬間に左腕アームパンチシステムが起動。左側面部に命中した。
衝撃でダーク曹長機の左脚が浮く。懸命に横転を避けるダーク曹長。
スピンターンの後、バイマン上等兵はSAT-03を放った。
命中しない。視覚が完全では無いのだ。しかし、不運にもダーク曹長機は姿勢を立て直す途中だった。
爆風に煽られ激しく横転した!
停止状態の的を外す事は無かった。それが視覚復活の途中であったとしても・・・。
SAT-03がダーク曹長機を大破させたのだ。
右手1時方向からガルシア軍曹機がバイマン上等兵機に迫る。重心移動で横滑りさせながら迎え撃つバイマン上等兵が云う。
「いい加減ムカついて来たぜ!」
彼の視覚状態が、常人に対応出来る許容範囲外である事は間違い無かった。
「これ位見えていれば充分だ!」
とバイマン上等兵。敵ATの機銃が閃光する。
激しい蛇行が奏功し砲弾が空を切る。
その時だった!
ガルシア軍曹機が機銃を放棄したのだ。
「あと数発で弾切れ・・・。さぁ!頃合だぜ!」ガルシア軍曹が叫ぶ。
機銃を放棄した敵ATは猛然とバイマン上等兵機に迫る。その姿にバイマン上等兵は察した。
「特攻か!」
瞬時にSAT-03を放った。しかし、敵ATは機体を傾け直撃を回避。左腕が吹き飛んだが減速無く突っ込んで来る!
「うおぉぉぉ!」
ガルシア軍曹の雄叫び!右腕を伸ばし機体を前傾、両腰部11mmガトリングガンが乱射される!
被弾しバイマン上等兵機左フロントアーマーが激しく傷付く。
更にコクピット内で砲弾片が弾けて火花が散った。
機体が接触する!
その瞬間、バイマン上等兵は機体を右に捻った。間髪入れず降着レバーを引き上げる。ガルシア軍曹機は敵ATに組み付けずに横転。
降着レバー解除と同時にスピンターン、SAT-03が放たれた。
ガルシア軍曹機が木端微塵に四散した。
「・・・グレゴルー。」
小さくバイマン上等兵が呟き視線を10時方向に向ける。クロスレンジ外で爆発音を確認した・・・。

ガゼール中尉は敵ATが放ったミサイルを躱し即座にガトリングガンを掃射する。外れたミサイルは後方で弾け大きな爆発音を発した。
グレゴルー伍長の視覚は完全では無い。
しかし、バイマン上等兵同様に彼らRS部隊員の対応可能範囲までは復活していた。
「なるほど。1つ目にしては良い動きをする。」
グレゴルー伍長が呟く。
「何者だ・・・。紙一重で攻撃を躱しやがる。」とガゼール中尉。
グレゴルー伍長がバックパックを除装。排除されたバックパックの総重量は一目瞭然。地面に深く沈んだ。
更に右腰部二連装SMMミサイルランチャーも除装。グレゴルー伍長はGAT-22以外の銃器を放棄したのだ。
「・・・まずい・・・。機動性が上がるぞ!」ヴェルナー少佐は思わず声に発した。
グレゴルー伍長がアクセルを一杯に踏み込む!
機体総重量が軽減された事で強烈に加速。グレゴルー伍長は加速Gを無視して突撃した。
ガゼール中尉機が急停止する。限界まで接近させて一撃を放とうと云うのだ。
「その速度域で射撃が出来るものか!」ガゼール中尉が敵ATに照準を合わせる。
ガゼール中尉が頭部に照準を合わせる刹那、敵ATが急減速した。更には直進に切り替えて接近して来る。
しかも攻撃が無い。
「機体の故障?弾切れ?」とガゼール中尉。
「故障か・・・。ガゼール、外すなよ!又と無い好機だ!私は敵AT後方より接近中だ!」
ヴェルナー少佐が凄んだ。
敵ATは機銃を放棄してショルダーチャージの体勢に移行した。脚部ロケットエンジンも停止している。
「故障だ、間違いない!」ガゼール中尉は余裕の笑みを見せた。敵ATの距離20m!
「地獄に落ちろ!」ヴェルナー少佐が敵AT背部に照準を合わせる。敵ATの距離20m!
ガゼール中尉とヴェルナー少佐は粗同時にトリガーを引いた。
二人の射撃能力は高かった。しかし、グレゴルー伍長は戦闘時心理状態を把握する事に長けている。
トリガーを引く瞬間を読んでいた。
グレゴルー伍長が降着レバーを引く。ガゼール中尉照準の頭部、ヴェルナー少佐照準の背部が沈み込んで行く。
「!」それは刹那の出来事だった。
ガゼール中尉が放った砲弾はヴェルナー少佐機頭部に命中。スコープレンズ部辺りが完全に破損した。
ヴェルナー少佐が放った砲弾はガゼール中尉機コクピット辺りに命中。貫通した砲弾片がガゼール中尉を襲った。
ガゼール中尉は激しく吐血。目を閉じる瞬間に敵ATの姿がモニターに映し出された。
ショルダーチャージの衝撃!
更に脚部ロケットエンジンが火を噴く。ガゼール中尉機は激しく後方に転倒。その勢いでガゼール中尉は後頭部を強打した。
仰向けとなったガゼール中尉機の右側にグレゴルー伍長機が停止する。
間髪入れず右腕アームパンチシステムを頭部に放った。
左脚を軸に90度右回りにスピンターンさせてヴェルナー少佐機に機体を向けるグレゴルー伍長機。
ヴェルナー少佐機は頭部周辺から硝煙を立ち昇らせ仁王立ちしている。
グレゴルー伍長は歩行動作を起動。ヴェルナー少佐機に歩み寄る。その向こうに5機のRS部隊機を確認。距離にして80m程だ。
ややあってヴェルナー少佐機の眼前にグレゴルー伍長機が停止。
互いの距離は2m程だろうか。
ヴェルナー少佐機のコクピットハッチが開いた。ヘルメットは砕けコクピット内は鮮血に染まっていた。
グレゴルー伍長機のコクピットハッチも開かれる。
・・・数秒だろうか・・・。両者は見詰め合っていた。
「き・・・貴様らは・・・ぐふっ!」
ヴェルナー少佐が血を吐く。そして続けた。
「はぁ・・・はぁ・・・只者じゃ無いな・・・。正規兵?・・・いや、殺しの専門屋か。」
グレゴルー伍長は応えない。ヘルメットで表情すら窺えなかった。
「皆・・・赦してくれ。こんな奴らを相手にさせてしまって・・・私も直ぐに行く。」
ヴェルナー少佐は最後の息を吐いた。
「あがりかい?小隊長。」
バイマン上等兵からの通信だ。
「陽が沈む前に済ませろ。・・・ゲイル!」
バイマン上等兵からの問いには応えなかった。
「ふっ。察していたか・・・。良いだろう。」
応えるゲイル特技下士官。
陽はデムロアの地平線に沈み掛けていた。

たった6機のATにデムロア星特殊防衛部隊は壊滅。
しかし、防衛部隊を壊滅させても彼らは陣地に戻ろうとしなかった。
・・・6機のATは防衛部隊基地に向けて走行を開始した・・・。




━ 第四章  「怒涛」  完 ━