デムロア攻略戦

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第五章 前夜

デムロア星特殊防衛部隊基地に向かうグレゴルー小隊とゲイル小隊。
排除した兵装を組み付けるのに予想以上の時間を要したグレゴルー伍長。
バックパック組み付けをサポートしたバイマン上等兵と共に遅れを取っていた。
「バックパックまで除装する必要があったのかぁ、小隊長さんよぅ・・・。」
とバイマン上等兵が尋ねる。
「へっ、お前ぇには判るまいバイマン。戦闘時の心理、精神状態・・・。少し学んでみたらどうだぁ?」
グレゴルー伍長は僅かに微笑んだ。
「生憎、心理学なんざ興味が無いんでねぇ。」
不貞腐れた様に応えるバイマン上等兵。
その頃、一足先にゲイル小隊とムーザ上等兵が防衛部隊基地の出入口まで到着していた。
ゲイル特技下士官機が降着姿勢に移行する。
間髪入れずコクピットハッチが開かれゲイル特技下士官はデムロアの大地に降り立った。
「待てよゲイル。一体何をしようってんだ?」
とムーザ上等兵。
「ムーザ、邪魔するな。俺と貴様は出入口で待機だ。」
ダフィー上等兵が割って入る。
「貴様に訊いてるんじゃねぇ。」
ムーザ上等兵が凄む。
二人の遣り取りを無視してゲイガン上等兵も自機を降りていた。
ゲイル特技下士官と共に専用ケースから端末装置を取り出している。
その刹那、グレゴルー伍長からの通信が入った。
「ムーザ。ダフィーと出入口で待っていろ。」
「・・・小隊長、遅いぞ!」
ムーザ上等兵が応える。
「なぁに、直ぐに着くさ・・・。」
抑揚無いグレゴルー伍長の応答だった。
「ゲイルは何を始めようってんだ?」
問うムーザ上等兵。
「小隊長。俺もムーザと同じだ。奴は何を?」
バイマン上等兵が続いた。
「ふっ。お前ぇらは知らなかったか・・・。奴が何故[特技下士官]と呼ばれているかを・・・。」
そうだ。何故、ゲイル・ラトニアム伍長は特技下士官と呼ばれている?
ムーザ上等兵、バイマン上等兵はグレゴルー伍長の言葉を待った・・・。

その頃、ビルギギン指令本部内でマントヴァ中将の命令に反する動きがあった。
意に満たない5名の高級将校らが対軌道大型ミサイルの管制室に向かっている・・・。
「ゲスハ准将、我々の判断は・・・。」
コリモン大佐は尋ねた。
「では訊く!貴様は何故我々と行動を共にしているのだ!」
ゲスハ准将が凄んだ。
「確かに総司令の発言には承伏出来ぬ点はあります。しかし・・・。」
「しかし、何だっ!」
イヴァーン上級大佐が威圧的な態度で問う。
軌道ミサイルは12発。総司令の云われた通り機動艦隊撃滅は不可能です・・・。」
「貴様ぁぁぁっ!」
イヴァーン上級大佐がコリモン大佐の胸座を掴んだ。
「よせ!」
止めたのはブルネット上級大佐だった。
「軌道爆雷の報復は本国だけでは無いでしょう。無論、占領が目的であれば規模は小さいかもしれません。」
コリモン大佐が云う。
「他国への爆撃は容赦無し・・・。そう云いたいのか?」
とエヴゲーニ大佐。
「そうだ。」
コリモン大佐が頷いた。
「ならば貴様の意は総司令と同じだ。我々と行動を共にする必要は無い。」
エヴゲーニ大佐が云った。
「違う!何もせず上陸させる積もりは無い!」
「貴様どうしろと云うんだ!」
イヴァーン上級大佐はコリモン大佐を投げ飛ばした。
「アストラギウス銀河全土で戦争が起きているんだ。援軍など望めんのだぞ。」
エヴゲーニ大佐は肩を落としながら云った。
「コリモン大佐、此処で決断するが良い。我々の意は変わらん。」
そう云うとゲスハ准将は管制室に向かった。
コリモン大佐は床に座り込んだままだった。他の3名もゲスハ准将を追う。
「無駄死にだ・・・。皆判っている筈だ・・・。放棄・・・放棄するべきだぁ!」
コリモン大佐が叫んだ・・・。
管制室に向かう高級将校らの後方で銃声が訊こえた!・・・皆、脚を止め振り返った。
「・・・コリモン・・・。」
エヴゲーニ大佐が小さく呟いた・・・。
ギルガメス連合に一矢報いる。それだけでも良いじゃないか、コリモン大佐。」
エヴゲーニ大佐の小さな声は、誰にも訊こえなかった。
エヴゲーニ大佐は管制室に向かった。・・・そうだ。今更、引き返す事は出来ないのだ・・・。

小隊員の問いに応えぬままグレゴルー伍長機が防衛部隊基地出入口に到着した。
後方にはバイマン上等兵機も確認出来る。
「ゲイルは?」
誰とは無くグレゴルー伍長が尋ねた。
「ゲイガンと基地内に居る。」
ムーザ上等兵が応え、更に続けた。
「質問に応えろよ、小隊長!」
「ん?・・・そうさなぁ・・・。奴はコンピュータ技術に精通しているとでも云っておこうか・・・。」
とグレゴルー伍長。
「あぁ?」
ふてぶてしくバイマン上等兵が割り込むが明らかに好奇心剥き出しであった。
「ハッカーと云えば訊こえは良いが、奴は破壊者・・・つまりクラッカーなのさ。」
ムーザ上等兵とバイマン上等兵は黙り込んだ。
そこにダフィー上等兵が割り込む。
「俺はネットワークなどに興味は無い。しかしゲイガンは違ったんだ。小隊長から技術を学ぼうとしている。」
「けっ!それでゲイルと一緒に居やがるのか。」
バイマン上等兵が奇声を上げた。
「ゲイルはビルギギンのネットワークに侵入するって事か・・・。目的は?」
ムーザ上等兵が問う。
「さぁな・・・。直接訊いてみたらどうだぁ?」
ダフィー上等兵が応える。
「ふっふふ・・・。」
不敵な笑みを浮かべてグレゴルー伍長が続けた。
「色々とやってくれそうだぜ・・・。」
その頃、ゲイル特技下士官が手際良く防衛部隊員の使用していた端末と自身の端末とを接続していた。
「予想通りだな。特殊なネットワークじゃ無い。」ゲイル特技下士官は小さく呟いた。
表示装置にユーザー名とパスワードの入力画面が立ち上がっている。
「質の悪いアルゴリズムだ・・・。」
ゲイル特技下士官が自身の端末装置を操作。後方でゲイガン上等兵が食い入る様に見詰めていた。
アプリケーションの保安上に存在する不備を意図的に利用するゲイル特技下士官。
想定しないデータベース言語文を実行させた。
「ログインに成功・・・。」
ゲイガン上等兵は思わず零した。
ネットワークに侵入した破壊者が次々と足場を組んで行く。
保安水準の高さをビルギギンネットワーク管理者達は自負していたのだ。
しかし、それは管理者が侵入経路を見つける事が出来なかっただけであり脆くも崩れ去ろうとしていた・・・。

「ん?」
グレゴルー伍長らが東の空に輝く光の帯に目を向けた。数秒後には上空から降りてくる光の帯に対し対空放火が始まった。
「別働隊の上陸か・・・。」
ダフィー上等兵が呟き、更に続けた。
「ビルギギン上陸とは桁外れの数だな。いっその事、奴らをビルギギンに上陸させりゃ良いものを。」
「他国は占領じゃ無い。徹底的な破壊が目的だ。破壊すりゃそれで終了さ。俺達の様な占領戦とは訳が違うさ。」
ムーザ上等兵が応えた。
「徹底的破壊なら吸血部隊こそ適役じゃねぇか。」
バイマン上等兵が割って入る。
「判ってねぇなバイマン!敵の精鋭部隊は全てビルギギンに集結している。
グレゴルー伍長が冷めた口調で続ける。
「抜擢された特殊部隊らの所由は
、その対応にある。破壊すりゃ完了なんて生易しいもんじゃねぇんだからよ。」
ややあって防衛部隊基地の出入口からゲイル特技下士官とゲイガン上等兵が現れた。
「完了か?」
グレゴルー伍長が尋ねる。
「幾つかロジックボムを仕掛けた。」
抑揚無くゲイル特技下士官が応えた。その後ろでゲイガン上等兵が端末装置を片付けている。
「ゲイガン!お勉強になったかぁ?」
バイマン上等兵が陰険な目付きで訊く。
唾を吐き右手でバイマン上等兵機に中指を立てた。
「けっ!死にやがれっ!」
その奇声は通信機越しであるもバイマン上等兵が凄んだ様子を充分に伝えていた。
「さぁ陣地に戻るぞ。今頃は武器弾薬の補給と、消耗部品の交換の真最中だろうぜ。」
グレゴルー伍長機のスピンターンに各機が続いた。

「!」激しい衝撃が第二三メルキア方面軍ギャランド機甲大隊第七中隊ハミルトン小隊の揚陸艇に伝わる。
猛烈を極める敵国の対空砲火。
敵国としても生存を賭けた戦いなのだから当然だろう。何度目の衝撃だったのだろうか・・・その刹那ブザーが鳴り通信が入った。
「着陸に移る。衝撃に備えろ!」
降下後にして、初めてのアナウンスであった。
そのアナウンスから数秒後の事だった。着陸寸前に揚陸艇前部に対空砲が被弾。そのまま敵国ジームラのエアポートに
墜落した。
「皆、無事かい?」
ティア少尉が叫んだ。
「小隊長!脱出しましょうぜぇ!爆発までの時間は残されちゃいねぇ!」
ハミルトン小隊のギャップ・グラファイト上等兵が応えた。
炎上する揚陸艇から脱出。即座にグライディングホイールを回転させ揚陸艇を離れた。約70m程走行した直後に後方から激しい衝撃!
揚陸艇は木端微塵に爆発炎上四散した。
「危なかったな・・・。」
ギャップ上等兵が云う。
「しかし、パイロットを救えなかった。」
アズライト上等兵が呟くとティア少尉が続いた。
「アズライト上等兵、気持ちを切り替えろ!」
「りょ・・・了解!」
1時方向にある弾薬基地、公共施設を破壊。後続の侵入路を確保する!良いかい?」
ティア少尉の命令に応えようと喊声が上がった。
前方には、ティア少尉の云う弾薬基地と公共施設が直ぐに確認出来た。ティア少尉からの指示が飛ぶ。
「展開する!ベロア二等兵とガス二等兵は左舷へ。指揮はギャップ上等兵、貴様が執れ!私とアズライト上等兵は右舷に!」
「了解!」
部下達が応える。
ギャップ上等兵らの前方から硝煙に紛れて敵AT部隊が出現した。EP-02ブロッカーの陸戦タイプだ。
「けっ!糞ATのお出座しかい!」
ギャップ上等兵が呻く。
通常の兵士が使用するブロッカーは、指摘通りにギルガメス連合のATとは性能差が段違いである。その差を物量で対抗していたのだ。
「ギャ、ギャップ上等兵!数倍以上の数です!」
ベロア二等兵が叫んだ。
「怯むな!糞ATなんぞ敵じゃねぇ!」
ギャップ上等兵は云うなりアクセルを踏み込んだ。
彼らが精鋭部隊である事に間違いは無かった。しかし、ATの操縦思慮が突出している訳では無い・・・。
徐々に敵の人海戦術に押されつつあった。
「ちっ!切りがねぇ!」
ギャップ上等兵が歯噛みする。
その刹那、後方からミサイルの嵐が吹き荒れた。
次々にブロッカーが火達磨と化す。後続部隊の攻撃だ。
「へっ!助かったぜ・・・。」
とギャップ上等兵。間髪入れずに後続から通信が入った。
「何してる!渋滞させるな!突撃しろ!」
「軽く云うんじゃねぇ!」
ギャップ上等兵は奇声を上げた。後続部隊がギャップ上等兵らのATを追い抜く。彼らも負けじとそれに続く。
「ギャップ上等兵、大丈夫かい?」
ティア少尉からの通信だ。
「あぁ。少しばかり数に押されたがね。」
「相手の動きを良く見るんだよ。新兵の集団に過ぎないさ!」
「へぇへぇ、肝に銘じますよぅ。」
ティア少尉とアズライト上等兵も後続と合流。敵AT部隊との乱戦に突入した。
弾薬の消耗も激しさを増す。‘一撃で敵ATを葬り去る事がこんなにも難しいと実感したのは初めてかもしれない’・・・ティア少尉は思った。
しかし、ギャップ上等兵に渇を入れるために使った言葉に嘘は無かった。確かに敵AT部隊のパイロットはエキスパート揃いでは無いのだ。
人海戦術・・・。物量には勝てないと云う事なのか。そんな気持ちが過ぎった刹那、眼前で衝撃的な映像が飛び込んで来た。
後続が使用するATH-14スタンディングトータスのショルダーチャージだ!異様なまでに後方へ吹き飛ばされる敵ATの姿・・・。
「流石はH級・・・。あんなチャージ貰ったら一溜りも無いわね・・・。」
ティア少尉が呟いた。
その直後、彼女の右後方で装填動作を起動させたアズライト上等兵機に敵ATが迫った。
「遣らせるか!」
ティア少尉機がスピンターン、敵ATを血祭りに上げる。
「小隊長・・・。助かったよ。」
アズライト上等兵が云う。
「施設内への侵入は目前だ!弾薬を節約!」
ティア少尉が続ける。
「ギャップ上等兵!健在かい?」
「あぁ!まだ地獄には落ちちゃいねぇぜぇ!」
「施設出入口で合流する。」
「了解だぁ!」
ルーウェン大陸各国の戦闘は始まったばかりである・・・。

対軌道大型ミサイルの管制室に到着した高級将校ら4名は、管制員達に要求を迫っていた。
「正気ですか?マントヴァ総司令の命令に背く事になりますぞ!」
管制員は凄んだ。
「貴様ら良く考えろ!衛星軌道上の敵機動艦隊を薙ぎ払うは難しい。しかし!このまま他国が亡びるのを見ていろと云うのか!」
「し・・・しかし・・・閣下を裏切る訳には・・・。」
管制員に対しイヴァーン上級大佐がマシンピストルを向けて云い放つ。
「我々は意を結した。歯向かう者には死あるのみ!」
「!」管制員達は絶句した。この様な事態が起こるとは誰も予測出来なかった。
その頃、指令本部では・・・。
「閣下。遂に他国への上陸部隊が・・・。」
「しかし爆撃を行なわずして上陸部隊を降下させるとは・・・。」
部下達の遣り取りを制するかの如くマントヴァ中将が切り出した。
「水準は地上部隊による破壊。」
数秒の沈黙。部下達は懸命に言葉の意味を探った。静寂を破って一人の部下が僅かに首を傾げて切り出した。
「お言葉の意味が・・・。」
「破壊後の居住を可能とするためだ。無差別爆撃による殲滅は易しい。しかし、その後の居住は困難を極める。」
「では、軌道ミサイルの攻撃有無を確認していたと・・・?」
「その様だな・・・。攻撃が無い事を確認したからこそ地上部隊を降下させた・・・。」
「閣下!今こそ軌道ミサイルの発射を!」部下が身を乗り出す。
「それも考慮の上で降下させているだろう。」重々しくマンドヴァ中将は云った。
「な・・・。」部下は吃った。
「所詮、降下させられた地上部隊は捨て石に過ぎん。皆殺しの大雨が降り注ぐだろう。数百年は汚染が消えぬ程にな・・・。」
「他国に生存の可能性は無しと云う事でありますか・・・。」
「それは我々も同じ。」
マントヴァ中将は唇を噛んだ。そして付け加えたのだ。
「一人でも多く道連れに・・・。戦わずして亡ぶより、武人としての誇りを・・・。その機会を与えぬは鬼よ。」
一人の部下が肩を揺らした。軍靴に滴下した涙は暫しそこに踏み止まっていた。

「対軌道爆雷ミサイルの起動も惰るな!」
イヴァーン上級大佐がマシンピストルを向けながら凄む。
「それも我国にしか配備されておりません!他国は爆雷攻撃の迎撃が出来ないのですぞ!」
管制員は必死に抵抗する。
「云うな!とにかく敵機動艦隊の一部を撃破するのだ!」
ブルネット上級大佐が制した。
「対軌道大型ミサイルを発射する!攻撃目標、敵機動艦隊!」
ゲスハ准将が命じる。
「どうなっても知りませんぞ・・・。」
管制員は端末に必要事項を入力。実行キーを押した・・・。
「・・・?」管制員の顔色が変わる。
表示装置に意味不明な不正プログラムが走る。即座に入力装置を操作して強制終了を試みるが不正プログラムの停止は不可能だった。
「ば・・・馬鹿な!」
管制員の血が逆流する。
「どうした!」
イヴァーン上級大佐が問う。
「不正プログラムが・・・。」
他の管制員らも異常に気付いた。
「なんだと・・・。どう云う事だぁ!説明しろ!」
ゲスハ准将は奇声を上げる。
「わ、判りません。対軌道ミサイルの発射が拒否されました。」
「まさか!」
一人の管制員が割って入ると更に続けた。
「ネットワークの侵入を赦したのか!」
云いながら入力装置を操作する管制員。そして付け加えた。
「不正プログラムは既に消滅している。・・・恐らく消滅と同時に拡散しているぞ。」
「・・・サイバー攻撃か。」
エヴゲーニ大佐が管制員に尋ねる。管制員は何も云わず頷いた。
暫しの沈黙・・・。どの位の時間が経過したのか・・・。しかし、それは突然起こった!警告メッセージが表示されたのだ!
「な!・・・馬鹿な!発射態勢に・・・!」
管制員らが奇声を上げる。無駄と判っていながらも入力装置を必死に操作した。
巨大要塞ビルギギン地下室に建造された対軌道大型ミサイルのサイロが起動していたのだ。
発射門も完全に開かれた状態となっていた。
「なんだ?・・・何事だ!」指令本部でも異常に気付く。
マントヴァ中将は前面大型スクリーンモニターを凝視した。
コールドランチによる発射方式が採用されているため、対軌道大型ミサイルは高圧ガスで次々とサイロ外へ射出されて行く。
「目標は?」
懸命に意識を正常に保とうとする管制員が端末での計算を実行。表示装置に自動計算が走った。
ややあって、端末から攻撃目標が表示される。
「そんな・・・。なんて事だ・・・。」
声を震わせる管制員。
「見せろ!」
管制員を押し退けて高級将校らが表示装置を確認した。
オスマス、ジームラ、ガナイに2発、クチラビア3発。そしてソロンにも3発が発射されていた。
「大きな軍事施設を持つ国には確実に3発・・・。」
ゲスハ准将は云うなり肩を落とした。
その直後に対軌道大型ミサイルのエンジンが点火された。一定の高度に到達したのだ。
「閣下!これは一体何事ですか!」
混乱する指令本部内で一人の部下が問う。
「情報システム員からの回答を待っている処だ。」
マントヴァ中将は聊かも高ぶらなかった。
「攻撃目標の特定が最優先ですぞ!敵機動艦隊で間違い無いのか・・・。」
その頃、管制室では一人の管制員が高級将校らに迫っていた。
「軌道ミサイルを対地ミサイルとして使用されたのですぞ!」
「サイバー攻撃が無ければ上手く行っていたのだ!」
イヴァーン上級大佐が凄む。
「それは結果論です!そもそも閣下のご命令に背いたのは誰なんですか!」
「貴様、口を慎めぇ!」
イヴァーン上級大佐はマシンピストルを向けた。
「狂っている・・・。」管制員が呟いた。
「なんだと・・・。」
イヴァーン上級大佐の鋭い眼光が管制員に向けられる。
「狂っていると云ったんだぁ!」管制員の堪え続けた一線も限界を超えてしまった。
その刹那、管制室に銃声が鳴り響いた!
イヴァーン上級大佐と口論になっていた管制員が血煙を浴びる。
反射的に瞼を閉じたのか、見開いた目に血は飛び込んでいなかった。
管制員に銃口を向けていたイヴァーン上級大佐は、右方向から頭部に弾丸を喰らって床に崩れ落ちたのだ。
「エ、エヴゲーニ大佐・・・!」
ブルネット上級大佐は云うなりエヴゲーニ大佐にマシンピストルを向けた。
「皆、指令本部に行け!」
エヴゲーニ大佐は管制員達に命じる。
「き、貴様!血迷ったかぁ!」
ブルネット上級大佐が叫ぶ。
「行けぇ!」エヴゲーニ大佐は云いながら銃口をブルネット上級大佐に向けた。
ブルネット上級大佐が引き金を引く前にエヴゲーニ大佐のマシンピストルが火を吹く。
「ぐぁ!」左肩に弾丸が命中し体勢を崩しながらもブルネット上級大佐は引き金を引いた。その流れ弾に管制員の一人が倒れる。
「もたもたするな!行け、行くんだぁ!」
エヴゲーニ大佐が管制員達に視線を向けた。その瞬間をブルネット上級大佐は逃さなかった。
ブルネット上級大佐が引き金を引く。弾丸はエヴゲーニ大佐の左腹部に命中した。後方に倒れ込むも複数の端末がそれを遮った。
吐血しながらもエヴゲーニ大佐はブルネット上級大佐に弾丸を撃ち込む。その2発目の弾丸がブルネット上級大佐の眉間を射抜いた。
「ぐっ!」次の瞬間、エヴゲーニ大佐の左鎖骨に弾丸が命中した。
「大佐ぁ!」ゲスハ准将が有らん限りの声を出しマシンピストルを構えている。
「准将・・・もう良いでしょう。我々は負けた・・・負けたので!」言葉を云い終わる前にゲスハ准将が引き金を引いた。
弾丸はエヴゲーニ大佐の左目に命中、彼は端末に凭れながらもゆっくりと崩れ落ちた。
「閣下・・・。」そう云うとゲスハ准将は自身の顎にマシンピストルを当て・・・。
その頃、指令本部に情報システム員からの報告が届いていた。
「閣下!サイバー攻撃ですと!」
一人の部下が声を荒げて問う。
「そんな事より発射された軌道ミサイル・・・。軍事施設を有する各国に向かっておりますぞ!」
「迎撃は!」
「残念だが、間に合わん・・・。」
部下達の遣り取りを制するかの如くマントヴァ中将は無言のまま立ち上がった。指令本部が一瞬にして静まる。
「ヴェルナー少佐との連絡は?」
マントヴァ中将が問う。
「はい。依然として応答はありません・・・。」
「ならばBフィールドとCフィールドの戦力は・・・。」
「はっ!それは間も無く到着する予定であります。」
「両フィールド指揮官に伝達!一刻も早く到着せよ!」
マントヴァ中将は引き締まった口元から鋭い声を発した。本部内の全員が敬礼する!
「か、閣下・・・。他国への対応は・・・。」
敬礼の後、部下が問う。
「犠牲者が一人でも少ない事を・・・。生存者が一人でも多い事を願う・・・。」
歯噛みするマントヴァ中将。
「しかし、敵の上陸部隊も被害を被る事になります・・・。仕掛けた奴は同胞諸共薙ぎ払おうと・・・。」
部下が呟く。
長い沈黙の後、マントヴァ中将は腰を下ろして云った。
「この事実こそがギルガメス連合だ。我々の様に高貴な精神を持つ者では無い事が判ったであろう。」
マントヴァ中将は目を閉じた。

軌道ミサイル
が最初に着弾したのはジームラだった。続いてガナイ、クチラビア・・・。オスマスとソロンにも着弾した。
「謀ったな!ビルギギン!」
ジームラの軍事施設に居た長官の身体が火炎の中で蒸発する。
「この公共施設は憲兵隊の施設じゃねぇか!」
ギャップ上等兵が呻いた。
「待ちな!」ティア少尉が異変に気付く。
「!」走る閃光と大気の振動。
「総員!衝撃波に備えろ!」
ティア少尉が叫んだ!
その頃、グレゴルー小隊とゲイル小隊が陣地に到着。彼らを発見したマッカイ曹長が大声を張り上げながら歩み寄る。
「貴様らぁ!今迄何処へ行っていたぁ!」マッカイ曹長が怒鳴る。
6名は低く笑いながらも前方のリーマン少尉に向かった。彼は今やATヘルメットを脱ぎ去り制帽を被っている。
「所長!もうお休みかと思いましたよぅ。」
バイマン上等兵が云う。後方でマッカイ曹長が怒りを抑えているのは一目瞭然だ。
「完了したか?」
抑揚無く問うリーマン少尉。一切の人間的感情からは無縁の落ち窪んだ目。しかし、凄まじいまでの威圧感があるのだ。
「ちっ!無視かよ。」
バイマン上等兵が舌打ち。それを鋭い眼光でグレゴルー伍長が制した。
「予定通りに。」
ゲイル特技下士官は軍靴を鳴らして敬礼する。ゲイル小隊の2名も続いて敬礼するが、グレゴルー小隊は続かなかった。
「そうか・・・。0600時に出撃する。準備を惰るな。」
リーマン少尉は早口に云う。
「はっ!」
再び敬礼をするゲイル小隊と、全く反応しないグレゴルー小隊。彼らは踵を返し悠然とその場を離れた。
「少尉殿。グレゴルーらの態度は問題です!」
マッカイ曹長が不快極まり無く云った。
「放って置け。」
低く呟きながらも、この場を去れと無言のまま彼を見据えた。その眼光に震えてマッカイ曹長はその場を去って行った・・・。
「ま、俺達以外に本格的な戦闘を行なった機体は無いからな。弾薬から消耗部品まで一切合切を交換したなんて奴も少ないだろうぜ。」
歩きながらも戦闘時に破損したATヘルメットを放り投げてバイマン上等兵が云った。
「ゲイルにゲイガン。貴様らの怪我ぁ、ロニーに診てもらったらどうだぁ?・・・いや・・・バイマン、貴様もか。はっはっはっは!」
グレゴルー伍長は大笑いした。
直ぐに唾を吐き捨てたゲイガン上等兵。
ゲイル特技下士官は挑発には応えない。彼らしい対応である。
「・・・ロニー・アバルト・ディオ伍長か・・・。確かに奴は外科のインターンレベルに値する医療技術を習得しているからな。」
ムーザ上等兵が云う。
そのムーザ上等兵を横目にバイマン上等兵が応える。
「手前ぇの怪我は手前ぇで治すさ。」
この言葉を最後に、彼らは自身のAT整備へと移って行った。
その頃、第十四強襲機甲部隊は擱き去りにした自走砲を回収し終わった処であった。
その光景を前にRS部隊員が呟いた。
「おいおい、まだその恥ずかしい自走砲を使う積もりなのかぁ?」
デビン・ムーラン伍長。デビン小隊の小隊長である。
「なんだ?貴様、喧嘩を売っているのか?」
第十四強襲機甲部隊員の一人が中腰のまま彼を見て云う。
唾を吐き捨てるデビン伍長。その後ろには同小隊のテリス・リオライア上等兵とシード・ライムズ上等兵の姿も確認出来る。
「止めておけ。こんな奴ら相手にするな!」
一人の隊員が止めに入った。
「腰抜け野郎が!」
彼らはデビン伍長の鋭くも邪悪な眼光を無視して作業を再開した。
第七二強襲機甲部隊にも喧嘩を売っているRS部隊員らの姿があった。
「今回の作戦じゃ核は使えねぇぞ。接近戦ってもんを経験した事あるのかぁ手前らよぅ。」
挑発するはRS部隊員ハウザー・バレル伍長。
「小隊長、俺に遣らせて下さい。親が見ても判らねぇ面にして遣りますぜ!」
ハウザー小隊、ベギー・リーズン上等兵が拳を鳴らして云う。
「待てよ、ベギー。俺が捻り潰してやるぜ!」
ハウザー小隊のシュルシュ・アーロン上等兵が続いた。
「野郎!」
その向こうでは喧嘩を買って出た第七二強襲機甲部隊員がRS部隊員と殴り合いになっていた。
「へっ!そんなんじゃ虫も殺せねぇぜぇ!」
RS部隊員ローバ・レンスキー伍長の拳が鳩尾に何度も炸裂。相手は気を失って倒れた。
昏倒した相手を何度も踏み付けるローバ伍長。
本当に殺す気か?
流石に同小隊のジョルジュ・カシム上等兵とデイビス・ロリビラー上等兵が止めに入った。
「止めんかぁ!」
第七二強襲機甲部隊隊長タニン・クレガー大尉が制した。
「貴様ら何を遣っておるかぁ!」
タニン大尉を横目に唾を吐き捨てながらその場を去るRS部隊員達・・・。
「奴らの下らん挑発に乗るな。整備を済ませて早く寝ろ!」
タニン大尉の言葉に敬礼するも、怒りを抑え切れない様子が伺えた。
第七降下騎兵団はそんな遣り取りを無視してAT整備に集中していた。
それもその筈、上空165mからの降下は予想以上に機体を虐めた。
密林地帯に繁茂する樹木の樹高は80mにも達している。この樹木に機体を接触させながらの着地であっても、衝撃は大きかったのだ。
「脚部の歪みは規定値を大幅に超えているぞ・・・。」
「装甲は無視しよう。関節部は必ず交換させろ。部品が届いているのは確認している。」
「溶液パイプが切断した機体もあるぜ・・・。出撃までに間に合うのか?」
「何はともあれドルフェス隊長の決断に間違いは無かったよ。あそこで降下しなければ、生き残りは更に少なかっただろう。」
「とにかく作業を完了させよう。徹夜してでも出撃には間に合わせるぞ!」
第七降下騎兵団の隊員らは喊声を上げた。
その頃、消耗部品が集められた場所でゲイル特技下士官は声を掛けられた。
「君の機体は見た事も無い武器を装備しているな。」
第七降下騎兵団隊長のドルフェス大尉だった・・・。
ゲイル特技下士官は思った。‘私の機体まで50mは離れている。それに何故、私が操縦士だと特定したのだ・・・。’
「試作兵器の運用でも任されているのかな?それにしても実体弾を発射するとは思えん。戦艦クラスのGLL熱線砲・・・。」
心做しかドルフェス大尉の眼光が鋭く感じた・・・。そして彼は更に続ける。
「いや・・・エネルギー砲と呼んだ方が正しいか・・・。本作戦であの兵器を一番最初に使用したのは何時だったのかね?」
ゲイル特技下士官は無言のままドルフェス大尉を見据えた。
野生を感じさせる鋭い眼光だった。
「何故応えんのかね?」
ドルフェス大尉は思った。‘あの目付き・・・只者じゃない・・・これがRS部隊員か・・・’
「まぁ良いか・・・。話しが出来て良かったよ。お互い頑張ろうではないか・・・。」
ドルフェス大尉は踵を返してその場を去った。
ゲイル特技下士官もその場を去る。ドルフェス大尉は彼の方を振り返りながら思った。‘・・・間違いは無い!・・・奴だな・・・。’

陣地内のRS部隊が固まっている場所から約150m程離れた陣地外・・・。その地点にヨラン小隊が待機していた。
「カルマン、訊こえるか。」
ペールゼン大尉からの直接回線による呼び掛けに間髪入れずに応答がされる。
「訊こえます。何か?」
応えるカルマン技術中尉。
「レニーのアルファ波。睡眠時にしては高い・・・。」
ペールゼン大尉がコンソールパネルに後付けされた端末を操作しながら問う。
「確認してみましょう。お待ちを。」
とカルマン技術中尉。ややあって問いに応える。
「若干高いかもしれませんが振幅や位相に極端な左右差がありません。特に問題ありませんな。」
「そうか・・・。ではビズは更に問題が無いと云う事だな?」
「はい。ビズ上等兵の数値も確認しておりました。左右差と漸増漸減は彼の数値の方が安定しておりますな。」
とカルマン技術中尉。
「出撃は0600時だ。ビルギギン侵入の後、頃合を見て発動させる予定だ。その積もりで待て。」
重々しくペールゼン大尉が云う。
「リーマン少尉や秘密結社の者達には?」
カルマン技術中尉が確認する。
「リーマンには私が直接伝える。奴らへの伝達は貴様に任せる。」
「畏まりました。閣下もお休みください。」
そこで二人の通信は終了した。

丁度その頃、ビルギギン指令本部まで軌道ミサイルの管制員達が雪崩れ込んで来ていた。
「貴様ら、一体何事だ!」
将校が問う。
「はぁ・・・はぁ・・・管制室にゲスハ准将含め数名の将校が立ち入り・・・はぁ、はぁ・・・!」
息遣い荒く応える管制員。
「何だと・・・。」
言葉を発した後、将校らがマントヴァ中将に視線を向ける。
「衛星軌道上にある敵機動艦隊への攻撃命令を受けました。しかし不正プログラムが起動し・・・。」
「承知している。敵のサイバー攻撃だ。で!ゲスハ准将は今何を!」
問う将校。
「判りません・・・。はぁ、はぁ・・・。エヴゲーニ大佐が私達に指令本部へ逃げろと・・・。何発かの銃声を訊きましたが・・・。」
「エヴゲーニ大佐だと・・・。奴め!ゲスハ准将と組んで裏切る積もりだったのか!」
怒りを顕わに拳を握る将校。
「貴様ら、直ちに管制室の状況確認を!」
将校が命じる。
指令本部にいる部下ら数名が敬礼の後、機関銃を装備して管制室に向かう。
「はぁ、はぁ・・・。指令本部に向かう途中の通路でコリモン大佐の遺体を発見しました・・・。」
管制員が云う。
その言葉を訊き僅かに管制員に視線を向けたが、直ぐにマントヴァ中将へ向き直って将校が問う。
「閣下!反逆行為ですぞ!この様な事態が起こるとは・・・。」
「ネットワークに侵入した不正プログラムだが・・・。」
マントヴァ中将が切り出した。的外れな返答に口を開ける将校とその部下達。
「不正プログラムよりも彼ら反逆者の処罰についての・・・。」
言葉の途中にマントヴァ中将が割り込んだ。
「管制室の状況報告を待ってからで遅くは無い。それより不正プログラムがこの1件のみと理解して良いか否か。その確認が最優先だ!」
「は、はい・・・。」僅かに頭を下げる部下達。
「情報システム員に確認を急がせろ。敵の侵撃、明け方には始まるぞ。」
マントヴァ中将が云う。
「敵の位置でありますが、恐らくは地雷原付近かと思われます。」
その言葉に反応したか一人の将校が声を荒げた。
「木製地雷の位置は此方でも特定不能だぞ。」
「は!ソリビア大陸にギルガメス連合が駐屯した頃まで遡りますが、設置位置を標記する間も無く上陸部隊の対応に迫られましたので。」
「斥候を出しても自爆する可能性が高い・・・か・・・。」
将校が俯きながら呟いた。
「無差別で構わん。砲撃を開始しよう。地雷原付近に容赦無くだ!」
「正気ですか!その付近には残存兵も居ります。私は実際に味方の砲撃を喰らった経験があります。・・・それこそ地獄ですぞ。」
ややあってマントヴァ中将が告げる。
「残存兵か・・・。暗闇に紛れて反撃の時を待っているかもしれん。死んだ兵士・・・戦っている兵士。私は・・・心から感謝する。」

日付変更まで2時間を切った。
陣地内でも自身のATコクピットで仮眠を取る者とAT整備に没頭する者。それは多種多様であった。
その時だった、陣地外で大きな爆発が起こったのだ!
RS部隊を含む全ての特殊部隊員は自身の銃器を手に取った。
第七降下騎兵団の隊員らが言葉を交わしながら走る。
「これで何度目だぁ?残存兵め、まだ居やがるのか!」
「だが今回は仕掛けたトラップの爆発じゃ無いぞ。地雷原での自爆か?」
「対AT用の地雷原だったらしいが、車両による移動を行なってる奴らが居るって事か・・・。」
指摘通り、残存兵が二人乗りのバギーで移動中に誤って地雷原に踏み入ってしまったのだ。
しかし、別働の残存兵がトラップに掛かった。
「しまった!」残存兵が叫ぶ。足下に仕掛けられたワイヤーが照明弾を発射させたのだ。
「野郎!今度のは近いぞ!」
第七降下騎兵団員が叫び、トラップを仕掛けた方向に移動する。
「けっ!居やがったぞ!」
RS部隊のブラドック・ミューラー伍長がギルガメス連合制式小銃を乱射した。
「何名確認したぁ!」
RS部隊バイソン・ダイム伍長が彼の左側に位置しながら問う。同時に中折れ式のロケット銃を発射する。
「恐らく4、5名って処だな。」
ブラドック伍長が云う。ブラドック小隊のマック・シモンド上等兵が後方に照明弾発射の指示を飛ばした。
照明弾が残存兵の姿を捉えた。間髪入れずにバイソン伍長がロケット銃を発射。単発式により連射は効かなかった。
「危ねぇぞっ!」
ムーザ上等兵が云うなり後方から軽機関銃を乱射した。
一部の特殊部隊で使用が確認されている機関銃だ。専用ベルトによって身体に固定する事が可能で移動時の戦闘には威力を発揮する。
「ぐあぁぁ!」何名かの残存兵が銃弾を喰らって倒れた。
ブラドック伍長、マック上等兵も小銃を乱射する。
「まだ生きてるかもしれねぇぜ!」
バイマン上等兵が残存兵の倒れた方向へ走った。ラドルフ伍長らもそれに続く。
「居たぞっ!」
グレゴルー伍長が呻いた。彼らより左手に30m程離れている。ムーザ上等兵と同じ軽機関銃を乱射するグレゴルー伍長。
マグライトで照らしながら、残存兵の生存を確認するバイマン上等兵。
ややあってRS部隊バジル・チャフシー伍長が残存兵を発見した。バジル小隊の小隊長である。
「へっへへ、生きてやがるぜぇ。」
云うなりアーマーマグナムを頭部に放つバジル伍長。肉片が粉々に飛び散った。
「ちっ!先を越されたか。顔面に喰れてやったかぁ?」
ラドルフ伍長が舌打ちする。
「へっ!ラドルフ、俺も見つけたぜぇ!」
ふてぶてしくバイマン上等兵が呟いて制式小銃を放った。
斥候と呼べる程のレベルでは無く、偶々トラップに掛かっただけの残存兵だった。
故に武装も乏しく反撃に出る前に全滅してしまった。
「しかしよ・・・出撃までの数時間はゆっくり寝かせてもらいてぇもんだなぁ。」
グレゴルー伍長は云いながらATコクピットに腰を下ろした。
「出撃前夜だ。これで終わりにしてくれよぅ・・・。」
バイマン上等兵もATコクピットで呟く・・・。
・・・この辺りを吹き荒ぶ風には血肉の臭いが混じっていた。流された血でビルギギン王国の地表は赤く染まったのだろうか・・・。
ビルギギンの黒門を突破すべく出撃までの残り時間は6時間と40分を切った・・・。そうだ。赤く染まるのは・・・本番はこれからだ。
 
殆どの隊員が眠りに入った頃、ペールセン大尉だけは端末の脳波数値を凝視していた。
レニー伍長とビズ上等兵・・・。二人の兵士に何が隠されているのか。ペールゼン大尉の云う[発動]とは・・・。




━ 第五章  「前夜」  完 ━