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デムロア攻略戦

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第八章 市民軍

要塞砲から放たれる近接信管装着の榴弾が大気を激しく振動させる。死の旋律を奏でるかの如く、凄まじい咆哮を上げながら・・・。
ビルギギンの要塞砲は、地対空としての能力と地上砲撃への能力を併せ持つ有能な大砲である。
地上砲撃に措いて近接信管装着の榴弾は、高度50m程で地表面を検知し宙で炸裂。
地面衝突で炸裂しないため、水平より下面の破片が全て有効となる。
要は大量の破片が地面に吸収されず目標広範囲に降り注ぐのである。RS部隊からすれば曳火砲撃を喰らっている状況となる訳だ。
その炸裂した際の破片が大地を乱していた・・・。まるで雨粒が水面を揺るがすかの如く・・・。
「ちっ!」
舌打ちしながらも機体を激しく蛇行させるグレゴルー伍長。
そのグレゴルー伍長機の右後方40m辺りだろうか。ゲイガン上等兵機が自主製作のシールドを火薬力によって除装した。
「ゲイガンッ!自慢の盾ぇ、棄てちまって後悔するんじゃねぇのかぁ?」
バイマン上等兵の言葉に応答は無かったが、機動性を上げるための行為であるは明らかだ。
その刹那、1機が火炎に包まれたまま激しく横転し爆発炎上四散!
「あぁ?」
バイマン上等兵が呻く。
大破したのはオルソン小隊のインマン・ブラウン上等兵機だった。
「小隊長!」
オルソン小隊のレイン・シュレイザー上等兵が叫ぶ。
「馬鹿がっ!」
小隊長であるオルソン・D・ベンヌ伍長が云う。
しかし、散る同胞に未練など無い・・・。生きたければ進むしかないのだから・・・。





























ビルギギン指令本部の大型モニターに戦闘状況が映し出される。
要塞砲付近に据えられた望遠カメラからのフィードバック映像だ。
「敵AT、阻止限界点までの距離は?」
問うマントヴァ中将。
ややあって、オペレータから報告が届く。
「先頭の敵ATとゼロバリア間の距離、100mを切ります!」
「くっ!」
一人の将校が眉間に皺を寄せながら付け加える。
「恐らくは指揮官機・・・。このままでは抜かれるぞっ!」
マントヴァ中将が指摘する阻止限界点。それは要塞砲の上下傾斜有効角度に起因しているのだ。
上方傾斜有効角度45度に対し、下方は15度程度である。無論、左右に砲身を振るは可能だが、有効角度5度と乏しい。
故に地上砲撃の際、下方傾斜有効角度が命取りとなる。榴霰弾、或いは近接信管装着の榴弾を用いても同様だ。
地上砲撃の阻止限界点・・・。
それは距離にして約200mである。
これを突破されると、黒門までの攻撃手段が失われるのだ。
難攻不落のビルギギンに、何故この様な盲点があるのか・・・。
それは驕りであろう・・・。
突破の防衛策を考えれば平射砲を据えるは云わずもがなだ。
しかしながら、過去一度も地上部隊に突破された事は無かった。
その事実が突破は不可能だと防衛省の連中を思い上がらせたのである。
一説にはマントヴァ中将からの要請を防衛技術研究本部の連中が断固としてこれを拒絶したとも云われている。
何れにせよ、突破不可能の神話は崩れ去ろうとしていた・・・。

その激しい攻防戦が繰り広げられる最中、やはり降り始めた。・・・酸を含んだ赤い雨が・・・。
「お湿りには丁度って処だな。」
ムーザ上等兵が云う。
「けっ!要塞砲の破壊が赦されてりゃ苦労もしねぇってのによっ!」
バイマン上等兵が眉根を寄せて云う。
[デムロア攻略戦]・・・軍上層部らは喉から手が出る程にルーウェン大陸の資源を欲していた。
無論、資源だけでは無い。第二四メルキア方面軍機動宇宙軍の最高級実力者らが絶賛する[要塞ビルギギン]も同様だ。
・・・可能な限り無傷で手に入れたい・・・
これは本作戦に措いて最重要視されたもので、戦略専門部会が通達した作戦内容にも纏められている。
流石のペールゼン大尉もこればかりは従わぬ訳にいかなかった様だ・・・。
命令には絶対服従と云うRS部隊の鉄則。それが、要塞砲の破壊を・・・トリガーを引かせないのである。
慈悲を示さぬ攻撃に1機が派手に横転!火炎に包まれたまま地表を回転した。
腕部と脚部が四方八方に飛び散った刹那、爆発炎上四散。
「構うなっ!」
ラッドル小隊の小隊長、ラッドル・バロー伍長が云う。散ったのは自身の小隊員であるビニー・アピス上等兵だった。
「糞がっ!」
ラッドル小隊、ミゼイル・ラリー上等兵が呻く。
時を同じくし、正にその瞬間だった。
「あぁぁぁっ!」
ビルギギン指令本部の将校が叫び声にも似た声を上げた。更に続ける!
「阻止限界点、抜かれるぞぉぉぉっ!」
その有らん限りの声が響き渡った刹那・・・指令本部は不気味な静寂に包まれた。
越えたのだ・・・。
指令本部大型モニターは、阻止限界点突破の瞬間を有りの儘に・・・残酷な映像を有りの儘に投影していた。
「・・・あぁぁぁ・・・そんな!」
次々と突破する敵ATの群れにオペレータが呻いた。しかし、呆然とその様を見詰めるだけしか出来ない。
その静寂を破ってマントヴァ中将が猛然と叫んだ!
「まだだぁっ!後続のAT部隊も続いて接近するぞ!突破する機体を少しでも砕くのだっ!」
「りょ・・・了解!」
オペレータが要塞砲の砲兵にその旨を伝達する。
しかし、明らかに士気が下がっていた。失望感か、絶望感か・・・或いは敗北感なのか。将兵らの空虚な表情がその全てを語っていた・・・。

阻止限界点を越え、ビルギギンの城壁まで辿り着いたRS部隊は、リーマン少尉からの伝達を確認していた。
黒門到着までの曳火砲撃によって死亡した隊員のフィードバックである。
「オルソン小隊、インマン・ブラウン上等兵。ラッドル小隊、ビニー・アピス上等兵。ヘンケル小隊、ブレックス・メゾット上等兵。以上3名だ!」
「へっ!思ったより少ねぇじゃねぇかぁ!」
バイマン上等兵が何時もの不貞腐れた口調で云う。
最後尾に位置する第七二強襲機甲部隊が運搬の350mm多連装噴進砲。黒門への砲撃開始まで小休止と云った処であろうか。
エイジス伍長はコクピット内でヘルメットを外し、お気に入りの軍用タバコ「コクオー」に火を付けた。フィルター無しの両切タイプだ。
彼が換気スリットを全開にすると新鮮な大気がコクピット内に流れ込んだ。
その刹那、乾いた銃声が鳴り響いた。
ビルギギン城壁を背にして小休止するRS部隊。ATコクピット内・・・更にはヘルメットさえ外していない隊員にまで確認出来る銃声音。
その方向に隊員らの視線が集中した。
ATを降着姿勢にしてコクピットハッチが開かれている機体があった。
その機体を確認したのと粗同時に敵兵が宙から降ってきた。地面に衝突した身体は、大半が砕け散り原形を留めていなかった。
どうやら、要塞砲の陰から真下のATを攻撃しようとする敵兵を狙撃している様だ。
かなりの時代物であるボルトアクション式狙撃銃を使用している隊員・・・。
「ジグマン・・・。腕利きの狙撃手上がりの奴だ。」
グレゴルー伍長が呟く。
ジグマン・ウォーチェスター曹長。
彼はRS部隊への入隊以前に、ATパイロットではなく対人・対ATを目的とした狙撃手であった経緯が確認されている。
敵情を正確に識別する能力に長けており、
航空支援、砲火支援、更には巡航ミサイル等の精密誘導兵器の標定、誘導の任務に就いた事もあるらしい。
「奴だよ・・・。ロイズ・バッカニアに認められた数少ないAT乗りっての。」
デビン伍長が指摘する。
RS部隊のみ使用する回線での会話が始まった。云わばRS部隊専用の周波数帯が存在するのだ。
「ロイズ・バッカニア?」
トーマ伍長が問い質す。
「知らねぇのかぁ?RS部隊創生期の隊員で、ATの操縦思慮は天才的だったらしいぜ。」
エイジス伍長が割って入った。
「知らねぇなぁ。」
間髪入れずにトーマ伍長が応える。
「無理もねぇさ!ロイズは既に消息不明だからよ。俺達が入隊した時にゃ名前だけの存在ってやつよ。」
バイマン上等兵が奇声を上げた。その言葉の後、彼は飲み干した飲料水の缶を握り潰した。
・・・ロイズ・バッカニア・・・。
RS部隊創生期に最年少とされた隊員である。
しかし、AT操縦思慮は突出しており、リーマンやマッカイ、ホイルロップらがその実力を認めたとさえ云われている。
グレゴルーらが入隊する頃に突如として姿を消した隊員であり、その噂だけが今も尚・・・残っているのだ。
一説にはペールゼンと繋がりのある秘密結社に姿在りとの声も・・・。
「5人目だぁ!」
云うなりバイマン上等兵がせせら笑う。
ジグマン曹長に狙撃された敵兵の残骸が辺りに散らばっていた。

Cラインの特火点を壊滅させ、各特殊部隊がDラインまで辿り着いた。
「こ、これは一体・・・?」
地面が大噴火したとも映るその光景に部隊員らが吃る。
その刹那、第七降下騎兵団ドルフェス大尉から通信が入った。
「ATの残骸を確認しろっ!」
「了解!」
第七降下騎兵団のパイロットが、レンズをズームアップして状況確認を急ぐ。
「敵機の残骸ばかりだな・・・。」
第十四強襲機甲部隊ライト大尉が呟く。
「これだけの大爆発・・・。奴らは全滅だっ!」
第七二強襲機甲部隊タニン大尉が応える。
しかし、ATの残骸は敵のものばかりであった・・・。
ややあって、第七降下騎兵団のパイロットが叫んだ。
「おいっ!見つけたぞっ!ギルガメスのAT!」
その言葉に、近くの部隊員らが歩み寄った。
「なるほど・・・間違いないが・・・。」
一人のパイロットが呟く。
「こちらにもRS部隊機を確認!」
確かにRS部隊機の残骸であった。それは間違いない。
しかし・・・余りにも数が少ない。
敵機の残骸とは比較にならぬ程に少ないのだ。
「馬鹿なっ!これだけかっ!」
タニン大尉が呻く。
「これだけの大爆発で・・・生き残っている奴らが・・・居ると云うのか!」
第十四強襲機甲部隊のパイロットが歯噛みする・・・。
同胞である。
RS部隊は彼らの同胞なのである。
しかし、既に彼らの中にRS部隊を同胞と解釈する者は皆無だった。
全滅では無かったのか・・・。
彼らは、Cラインの戦闘中にDライン付近のキノコ雲を確認した。異常事態の発生を伝えるその光景に、RS部隊の全滅を確信していたのだ。
同胞?
奴らが同胞だとでも云うのか?
そんな馬鹿な!
困苦に堪えない存在・・・それが奴らだ!
それ以上でも、それ以下でも無い!
・・・RS部隊のDライン突破を受け入れる事など・・・誰一人として出来なかった・・・。

「グレゴルー、訊こえるか?」
問い掛けるのはゲイル特技下士官だ。
応答は無い。それを察してか、ゲイル特技下士官が続ける。
「黒門一番乗りだと豪語していたが・・・実際の処、リーマン少尉殿のチームだったぞ。」
言葉の後、間髪入れずに各隊員らがせせら笑った。
「手前ぇら、殺されてぇかぁぁぁっ!」
バイマン上等兵が凄む。
「相手になってやる!どいつからだぁっ!」
ムーザ上等兵も続いた。
・・・暫しの沈黙。
ややあって、グレゴルー伍長が低い声で話し始める。
「ゲイル。貴様の云う通りだなぁ。一番乗りは所長らさっ!」
バイマン上等兵、ムーザ上等兵は黙り込んだ。
「しかし・・・貴様の仕掛けたコンピュータウィルスはどうなんだぁ?」
グレゴルー伍長は続ける。
「黒門はコンピュータ制御された通行門だ。何時になったらゲートが開く?・・・へっ!セキュリティの突破に失敗したかぁ?」
云い終わる刹那、グレゴルー伍長がせせら笑う。
「何の事だ?」
ゲイル特技下士官が抑揚無く応答、更に続ける。
「黒門到着を煽ったのは貴様だ。お蔭で到着時刻が早まった。」
「何!」
グレゴルー伍長が歯噛みした。
「ふっ・・・もう暫く待っていろよ。」
目を閉じながら云うと、ゲイル特技下士官は僅かに微笑んだ。
「野郎・・・!」
グレゴルー伍長が低く呻いた。
ゲイル特技下士官はクラッカーとして平均水準以上の能力を持つと云われている。
その彼がビルギギンのネットワークに侵入した際に仕掛けたのはロジックボムであった。
コンピュータに対する理論爆弾であり、システム上で条件が満たされた場合や、指定時刻によって動作を開始するプログラムだ。

「!」
ビルギギン指令本部に緊急事態を告げる警報が鳴り響いた!
余りにも突然の警報だった。慌てふためくオペレータらは、何の警報であるのか確認を急ぐ。
その刹那、情報システム員からの報告。
オペレータがマントヴァ中将にフィードバックする。
「閣下!回線00-3ですっ!」
「何事だっ!」
間髪入れずにマントヴァ中将が問う。
「遣られました、コンピュータウィルスですっ!」
「対応出来なかった領域のウィルスなのか?」
「・・・いえ・・・申し訳ありません・・・削除した筈が・・・。」
「云え!詳細をっ!」
マントヴァ中将が凄む。しかし、云い出し難いのかシステム員は黙り込んだ・・・。
ややあって、システム員が詳細を告げる。
「ウィルス検索で発見した3件。自動監視カメラ無効化、動体検知式自動制御銃無効化、脱出艇専用門開閉無効化のプログラムはダミーでした。」
「何だと!」
マントヴァ中将の部下達も耳を傾ける。
「ワクチンで間違いなく検出されたのですが、全くのダミー。即ち、身代わりのプログラムだったのです。」
「偽プログラムだったと・・・?」
「はい。恐らくはウィルス検索で確実に引っ掛かる様に・・・。」
「本物のウィルスに対しての処置はどうするのかっ!」
マントヴァ中将が問う。心做しか強い口調だ。
「申し訳ありません。何時、どのタイミングで発動するのか。・・・最早、手に負えません。・・・誠に申し訳ありません。」
「ミレディ少尉。」
「はっ!」
「この警報は何を告げているのかね?」
「・・・は、はい・・・これは・・・この警報は・・・。」
「少尉っ!何の警報かと訊いておるっ!」
システム員が云い終わる前にマントヴァ中将が凄んだ。
「はいっ!ロジックボムの発動を確認しました。黒門が開かれます。」
「何だとっ!開かれる前にシステムを切れっ!敵AT部隊は城壁まで辿り着いておるのだぞっ!」
一人の将校が声を荒げる。
それをマントヴァ中将が右手で制した。
「コンピュータを切る事は出来んよ。再起動し、全てのプログラムが正常化するのに何日掛かるのか。」
マントヴァ中将の言葉に、誰もが口を閉ざしてしまった。
「おい!どう云う事だぁぁぁ!黒門が開かれるぞっ!」
「指令本部っ!訊こえるか?黒門が開くぞっ!一体何事だぁぁぁっ!」
要塞砲の砲兵らが呻いていた。
オペレータの通信機から漏れたその悲鳴にも似た叫び声。それが静寂に包まれた指令本部内に響き渡っていた・・・。

「・・・ゲイル!」
云うとグレゴルー伍長は歯噛みした。
黒門が全開となった。
RS部隊各機はアクセルを全開にして突入を開始する。
「システム破壊のプログラムは仕掛けていない。何れ黒門は閉じられるだろう。」
誰とは無くゲイル特技下士官が云う。
ビルギギン内部へと侵入を果たしたRS部隊機。眼前には特火点や掩蔽壕が確認された。
「どう云う訳だっ!黒門が開かれるとはっ!」
85度角で高射砲を上空に向けていた砲兵は声を荒げた。
物理的接触が無い限りは爆発しない砲弾を用いて、城壁間近を砲撃する積もりだったのだ。云わば砲弾を撃ち上げ、城壁間近に落下させる作戦だった。
しかし、突然にして黒門が開かれた事により、砲兵らは平射砲撃可能角度までの調整を急ぐ。
「侵入を赦したのかっ!」
「何としても地下施設への侵入は防ぐんだぁっ!」
「敵ATの数は?」
「不明だ!」
「じょ、冗談だろ!対応出来る数なんだろうなぁっ!」
「スカラベ、スネークガンナーを出せ!」
「ブロッカーはどうしたぁ?」
訊こえるのは正に悲鳴だった。悲鳴以外に例えようが無かった。
「良いかぁ!地下施設侵入は命に代えても阻止するんだぁっ!」
一人の砲兵が叫んだ。
巨大要塞ビルギギンの主要施設は全てが地下に建設されている。
これは衛星軌道上の地上監視船の調査により明らかだった。
しかし、入口に関しては全くを以って不明。
これに関しては、作戦内容を纏めた資料に以下の文言が記されている。
[黒門突破にて内部侵入を果たしたAT部隊がこれを発見、施設を制圧せよ。]
余りにも巨大な城壁内部で入口を発見するは困難を極める。
誰もがそう理解していた。
故に、持久戦となる前に地下施設侵入を果たす。
これが絶対であろう。
無論、RS部隊を含む各特殊部隊らは承知の上だ。
しかし、地上施設の周囲は二重三重の護りで固められている。況して、命に代えても護り抜こうとする敵兵が固めているのだ。
そう易々と発見出来るものでは無いだろう。
「ってー!」
防衛線でも据えられていた同型の120mm砲が火を吹く。
「小隊長っ!」
バイマン上等兵の声だ。
「何だぁっ!」
グレゴルー伍長が応える。
「黒門一番乗りは所長に譲ったが、地下侵入は俺らが一番手ってのはどうだぁ?」
にやけながらバイマン上等兵が云う。
「ふっ!」
鼻で笑うグレゴルー伍長が更に付け加える。
「それで行こうぜぇぇぇっ!」
叫ぶグレゴルー伍長がトリガーを引く。
GAT-22へ装着の擲弾が火尾と共に飛び、120mm砲を破壊した。

「後続を確認!」
要塞砲の砲兵が叫ぶ!砂塵を巻き上げながら接近してくる敵の後続部隊に間違いなかった。
「確認した!これ以上、ゼロバリアを突破させるなっ!」
この言葉に喊声が天を突く。
「ってー!」
地響きを上げて要塞砲が放たれた。
「見えた!黒門だっ!」
第七二強襲機甲部隊員が叫ぶ。しかし、その一言の後に機体が爆発炎上四散!
轟音、閃光、爆発、炎上、四散・・・それが周囲を満たす。
「がはぁぁぁっ!」
第十四強襲機甲部隊のパイロットが悲鳴を上げると同時に機体は失せた。
「構うなっ!出力最大で突破するんだぁぁぁっ!」
第七二強襲機甲部隊タニン大尉が叫ぶ。
黒門は目視出来ても、ゼロバリアを突破しない限り曳火砲撃は回避不可能である。
第七降下騎兵団、第十四強襲機甲部隊、第七二強襲機甲部隊の誰もがそこを目指した。只管アクセルを全開のままに・・・。

「ミレディ少尉!」
ビルギギンの情報システム員が声を荒げた。
「どうした?」
間髪入れずにミレディ少尉。
「スクリプトエラーが・・・こ、これは?」
「何っ!」
仕掛けられたロジックボムが正しく実行されなかったのであろうか。
何れにせよ、システム復旧の好機を得たと解釈するは当然であり、システム員が一斉に端末を操作する。
ややあって、黒門開閉の遠隔操作が可能となった。
「急げっ!後続が接近しているぞっ!」
実行キーを操作、黒門閉鎖のノートアラートが表示装置に走る。
「閣下に繋げっ!」
ミレディ少尉がマントヴァ中将に事後報告を告げた。
・・・確かに妙ではある。
発動したロジックボムが実行中に倒けたのだろうか。可能性が無いとは云い切れないも、喉に痞えるものが取れない隔靴掻痒の感が残った。
それでも黒門は閉じられた。後続部隊もそれを確認。
「くっ!黒門がっ!」
第七降下騎兵団パイロットが云う。
「ちっ!何故に今迄開かれていたんだっ!」
「判らん!とにかく今は黒門まで辿り着くのが最優先だっ!」

「閣下、回線00-5です!」
ビルギギン指令本部オペレータがマントヴァ中将にフィードバック。
「うむ、レイガン大尉かっ!」
とマントヴァ中将。
「閣下!遅くなり申し訳ありません!」
レイガン大尉が云う。
「脱出艇は?」
「整備完了致しました。何時でも飛べますっ!」
「良しっ!今直ぐだっ!既に敵の城壁内侵入を赦した、何事も躊躇うなっ!」
「了解!脱出艇2隻、発進させます!」

脱出艇コクピットに発進を告げる警告灯が点滅した。
「愈々かっ!」
パイロットが操縦桿を握り締めて云う。
幾つもの計器類の中で、表示装置が逆算式計算器により発射300秒前を切ったことを告げた。
既に敵AT部隊の城壁内侵入を赦したことはパイロットらにも報告されている。
しかし、戦闘の様子は何一つ判らない。
今は只その操縦桿を握り締め、計算器の数値を見詰めることしか出来なかったのだ。

凄まじい爆発と共にスネークガンナーが木端微塵に四散。
十字砲火の中、敵ATの損害を確認した者は皆無だった。
「ヴェルフェルム伍長っ!盲撃ちは止せっ!同士討ちになるぞっ!」
ブロッカーパイロットが叫ぶ。
「馬鹿を云え!敵ATの機影すら確認が出来ぬのに、的確な攻撃を受けて沈められているんだぞっ!」
「しかし、同士討ちとなっている奴らも・・・居るのだっ!」
「ならば、貴様が突破口を開けっ!テムシア伍長っ!」
敵AT部隊の凄まじい猛攻の中を飛び出すのは自殺行為に等しい。
撃ち砕かれた掩蔽壕を防御壁として、光る閃光の先を攻撃することが精一杯だった。
爆炎を切り裂き正気の沙汰とは思えぬ速度域で疾走する敵AT部隊。明らかに格が違い過ぎるのだ。
「怖気付いたのかぁ、テムシア伍長!盲撃ちは止せだと?偉そうに命令するんじゃねぇっ!」
ヴェルフェルム伍長が罵声を飛ばし更に付け加える。
「糞ったれがぁっ!」
これ程の罵詈雑言に堪える謂れはない!
テムシア伍長がそう思った時には、既に身体が機体を動かしていた。
「ヴェルフェルムッ!地獄で会おうぜぇっ!」
「テムシア?」
明らかに無謀な吶喊だ。敵ATの位置など判らぬまま掩蔽壕の残骸から飛び出した。
次の瞬間!
「がはぁぁぁ!」
テムシア伍長の悲鳴はノイズと共に途切れた。
ヴェルフェルム伍長は、テムシア伍長機がどの位置で遣られたのかすら把握出来なかった。
しかし、これだけは間違いない。
重装甲化させたブロッカーが一瞬にして葬られるのならば、敵AT部隊は高速徹甲弾を用いているのだ。
「テムシアッ!馬鹿野郎がぁっ!」
云いながら機体を吶喊させた。テムシア伍長を殺したのは誰でもない、自身なのだから。
しかし、ヴェルフェルム伍長機は10mも前進しない位置で爆発炎上四散した。

「ゲイル小隊長!」
「確認している。1時の方向、約1500m先の小山だ。」
ゲイガン上等兵の声に間髪入れず応答するゲイル特技下士官。
その通信会話に攻撃の手は休めず、他のRS部隊員も前方を確認。
小山から吹き上がる濃霧。
明らかに宇宙往復機の発射直前を教える水蒸気だ。
「ゲイルッ!そこから狙撃体勢は可能かぁ?」
グレゴルー伍長からの通信だ。
「熱線砲の有効射程距離内を確認。」
ゲイル特技下士官が続けた。
「出力を最大値で発射する。ゲイガン上等兵、私の機体を後方から支えてくれ。ダフィー上等兵は掩護を。」
「了解!」
ゲイル小隊の2名が同時に応える。
GAT-30のエネルギー供給を開始するゲイル特技下士官。
アキュームレータ駆動システムより弾体が形成され始める。
その刹那、ブロッカーパイロットは敵AT2機が動きを止め、狙撃体勢を執っているのを確認した。
「野郎っ!」
云うなり機体を加速させるブロッカーパイロット。しかし、2時方向からの攻撃を受け大破。
間髪入れずに次の獲物に襲い掛かるダフィー上等兵機。
閃光!
小山が噴火したものと錯覚するほどの閃光だ。
しかし噴火ではない。ついに脱出艇が飛翔したのだった。

「ゲイルッ!外すんじゃねぇぞっ!」
ブロッカーを撃破したグレゴルー伍長が叫ぶ。
「目標距離、焦点エネルギー温度、垂直ベクトル・・・補正終了。」
ゲイル特技下士官が呟いた。
その刹那、警告音式インジケータが出力最大値に達した事を報せた。
「トリガータイミング同調!」
その一言と同時にゲイル特技下士官がトリガーを引く。
GAT-30の銃口から凄まじいエネルギーの束が伸びて行く。
それは・・・眩いばかりに・・・一直線に・・・獲物に向かって・・・。
GAT-30は無反動砲である。
しかし、その重量から機体を仰け反らしての射撃は姿勢維持が困難であった。
これを考慮し、ゲイル特技下士官はゲイガン上等兵に機体の固定を担当させたのである。
今後、ATがこの様な大砲を運用する際には機体を支える駐鋤的なサポートシステムが必要不可欠となろう。
高度900mに達した脱出艇が火を吹き、爆発炎上四散。
初弾にして命中させるゲイル特技下士官の驚異的な射撃能力・・・それは瞠目に値する。
その数秒後、続いて残りの脱出艇が飛翔する寸前を教える水蒸気が確認された。
「ちっ!もう1機居やがったのかぁっ!」
ダフィー上等兵が呻く。
「エネルギー供給・・・約3分必要だ。」
ゲイガン上等兵が云う。
「野郎っ!3分も待ってりゃ手が届かなくなるぞっ!」
ブロッカーを血祭りに上げたバイマン上等兵が呻いた。
「・・・炎上させるだけで充分だ。」と、ゲイル特技下士官。
そして、エネルギー供給開始から約1分30秒が過ぎた時だった。残りの脱出艇が飛翔!
「目標距離、焦点エネルギー温度、垂直ベクトル・・・補正終了・・・トリガータイミング同調!」
ゲイル特技下士官が云う。
そしてエネルギーの束が再び大空に向かって走る。初弾より出力が足りないのは明らかだった。
「目標健在だぁっ!」
バイマン上等兵は叫んだ。
「ゲイガン上等兵、ダフィー上等兵、敵地上部隊への攻撃に戻るぞ。」
「了解っ!」
「ゲイルッ!1機は逃したってかぁっ!」
バイマン上等兵が問う刹那、脱出艇が火を吹いた。
初弾は脱出艇を貫くだけの出力を有していたが、次弾にその出力は残っていなかったのである。
しかし、ゲイル特技下士官は脱出艇のブースター付近に焦点を合わせたのだ。
それは炎上し・・・そして爆発を誘発・・・。

炎上する脱出艇内・・・。
一人の少女が担架に載せられている負傷兵の手を握りながら叫んだ。
「おじさぁぁぁんっ!」
その刹那、少女の身体は蒸発した・・・。

「閣下っ!脱出艇が撃墜されましたぁっ!」
指令本部のオペレータが悲鳴の様な叫び声を上げる。
「な・・・なんと云う事か・・・そんな・・・馬鹿なっ・・・!」
一人の将校が肩を落としながら云う。
そんな中、マントヴァ中将は前面大型スクリーンモニターを凝視していた。
何も言葉にせず・・・。
そして、要塞内地上施設の兵士達も脱出艇が撃墜された光景を呆然と見詰めていたのだった。
しかし、一人の砲兵が通信マイク越しに叫ぶ。
「赦せん・・・絶対に赦せんっ!ギルガメス軍など皆殺しにしてくれるっ!」
その一言の後、怒りに満ちた喊声が上がった。
スネークガンナーとスカラベが猛然と突進し、ブロッカーも機銃を乱射して吶喊する。
時を同じくし、地下施設に籠る市民らにも脱出艇撃墜の情報が届いていた。
ある者は悲鳴を上げながら泣き崩れ、又ある者は意識を失って昏倒。
その断末魔の叫び声が響き渡る中で一人の男が立ち上がった。
「俺達も戦おうっ!このまま何もせずに遣られるのを待つ。それで良いのかぁっ!」
その声に続く者があった。
「そうだぁっ!俺達も行こう!戦うんだぁぁぁっ!」
言下に皆の喊声が天を突く。
その数十分後であっただろうか、地下施設の市民らが怒涛の如くスネークガンナーやスカラベのある駐機場に押し寄せた。
「俺達も戦うんだっ!戦車に乗せろっ!」
暴徒。
正に市民らは暴徒と化していたのだ。
駐機場に居合わせた監視兵や整備兵ではこれを押し返す事など出来なかった。
監視兵が通信機で指令本部に報告する。
「閣下!回線00-8にお繋ぎを!」
オペレータがマントヴァ中将にフィードバック。
「何事だ!」
マントヴァ中将が問う。
「市・・・らが・・・暴徒と・・・しました・・・戦車を奪い・・・あぁ!」
そこで通信が途絶えた。
「閣下、一体何事でありますかっ!」
一人の将校が呻く。
「詳細は判らん。しかし、恐らくは地下施設の市民達が駐機場の戦車を奪い・・・。」
「ま、まさかっ!市民らが地上に上がると云うのでありますかっ!」
マントヴァ中将の言葉を待たずに一人の将校が声を荒げた。
オペレータに指示を出そうと云うのか将校は続ける。
「回線00-8からであればレベル8のセクター22にある駐機場だっ!憲兵隊を出動させろっ!」
彼の言葉をマントヴァ中将が制する。
「もう遅い。戦車が起動した後に憲兵隊が到着して何をすると云うのだ。それこそ暴動になる。」
将校は歯噛みした。
「閣下。」
一人の将校が歩み寄る。
「今の市民達に私の声は届かない。・・・もう誰にも止められまい。」
マントヴァ中将は目を閉じながら云った。